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「リュウさん、危ない!」
物陰に隠れていた伏兵が、リュウジに向けて発砲した。同時にレイラが、発砲した男のこめかみに弾丸を撃ち込む。男の顔面からは血しぶきが飛び散り、リュウジを狙った男は倒れた。男の撃った弾丸はリュウジの頬を掠めた。
「レイラ、助かった」頬の血を手の甲で拭いながら、リュウジが礼を言う。
「あのね、遅いわよ。あんたも班長も」
アンが非難がましく、レイラといつの間にかその場に居た班長、エイジを責める。
「ゴメン」
「いやいや、俺は援護したぞ」
TNTの班長、松島エイジは不服そうな顔をした。
「バカ息子はどうするの?」
アンが横目で倒れている男を見る。惨劇を目の当たりにした彼は、気を失って伸びていた。
「このまま放置しておけば。誰か迎えに来るだろ」
トウリが冷ややかな口調で答えた。
工場を出たところで、舗装されていない山道に不釣り合いな、黒塗りの車が近づいてきた。車は静かに五人の横を通り過ぎる。
「あれがバカ息子の父親。政治家の先生だ」
班長であるエイジが、黒塗りの車から降りている男を指さす。男は警察の上層部のらしき人物数人と工場の中に入って行った。
「もういい加減にしてほしいわよ。この国の平和ボケ。なんで、政治家ですらこんなに危機感ないの?」
吐き捨てるアンを見て、レイラが溜息をつく。
「それにしてもさ、いつまで続くんだろうね。未だに世界中のどこかで戦争があって、テロが起こって、スパイがいて」
「俺たちじゃ、どうすることも出来ない事だよ」
トウリが宥めるようにレイラの肩を叩いた。アンは呆れ顔でレイラを見る。
「レイラ、あんた時々変なこと言うのよね。自分の国が攻められたら、とんでもなく悲惨なことになるのよ。戦争なんて絶対になくならないわよ。やられたらやり返す。攻められないように、スパイを送り込む。そして、隙あらば攻め入る」
「ふぅん。そんなものなのかなぁ」
「あんただって、さっき何人殺したのよ。あいつらの仲間はきっと、私達を殺してやるって思うでしょうが。その繰り返しよ」
「おお、そうか」レイラはポンと手を打つ。
「ホントお子様ね」
「どうせあたしは年齢不詳ですよーだ」
「おい、早く行くぞ。こんな所でぐずぐずしていて、誰かに見られたら厄介だ」
エイジ班長が声をかける。
「あれ、リュウさんは?」
レイラはあたりを見まわした。
「リュウジなら先に行ったよ」
ポケットからチョコバーを取り出して、もぐもぐと咀嚼しながらトウリが答える。
「トウリ、あれだけ血しぶき見た後で、よくそんなもの食べられるわね」
アンがうんざりとした顔をする。
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