仲間たち

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仲間たち

 彼女達は地方の警察本部内で勤務している。しかし、それは表向き。裏の顔は警察庁から極秘に指名されたTNTの一員だった。警察庁から要請があれば、組織の垣根を越えて、いかなる事案にも介入していた。  この国のシステムにおける厄介な所は、各組織は優秀なのに、なかなか垣根を取り払えないところにあった。どうしても「こちらの仕事」と「あちらの仕事」が意思の疎通を図れないのだ。国益のため、国民の命を守るためには各組織の団結が必要なのだが、遅々として改善されない。 そこで警察庁直属の組織、TNTが極秘に作られた。  TNTとは化学物質のトリニトロトルエンのことではない。Topnotch team(一流のチーム)の略ではないかという説もあるが、実際の所、特別任務チーム(とくべつ にんむ チーム)の頭文字を取っただけのようだ。チームの存在は決して公にされていない。どんな事案でも介入できるが、その痕跡は決して残さない。万が一、任務中に命を落としても国は責任を追わない。地方の警察に数か所存在するという噂だが、真偽は不明だ。  この県で活動するTNTのメンバーは5人いた。  まずはアン。現在28歳。表の顔は警察本部内にある売店の売り子。普段は明るいブラウンの髪をカールさせ、無造作に束ねている。黒目がちな大きな目、肉厚な唇の持ち主でなかなかの美人だ。細身なのに胸が大きく、スタイルが良い。彼女目当てに売店に立ち寄る男性警察官も多い。 「アンちゃん、昨日どうしたの? ここ、閉まっていたけれど」  昨日は銃撃戦に参加していた、とは口が裂けても言えないアンは「ええ、ちょっと」と微笑んだ。 「ああ良かった。開いてた。昨日は売店閉めていただろう。彼氏とデートにでも行ってたんじゃないの?」 「違いますよぉ。実家で法事があったんです」  アンはにっこりと笑った。 「俺が注文した昇任試験の問題集、もう来てる?」 「はい、届いています。どうぞ」 「さすが、仕事が早いねぇ」 「名刺を注文したいんだけど」 「それならここに必要事項を書いてください」 「どれどれ、えっと携帯番号は……そうだ。アンちゃんの携帯番号も教えてよ」 「秘密です」  昼休みの売店はいつも、ちょっとした行列ができていた。アンは営業スマイルで、行列を捌いていく。ただ、そのスマイルは、客がいるときだけ。 「はぁ、やっていられないわよ」客がいなくなると不機嫌な顔になり、いつもの彼女に戻るのであった。   次は、トウリ。現在31歳。彼は警察本部内にある食堂のコック。身長181㎝、体重90キロの大柄な彼だが、意外に動きは俊敏。何より怪力、そして大食い。黒髪を短く刈りあげ、丸顔で丸い目。人懐っこい性格でいつも笑顔だ。甘いものも大好きで、いつもお菓子を常備している。食堂の厨房でも、作る時間と味見の時間が同等に存在するようだ。 「コックさん、俺、ライス大盛ね」 「はいよ。おーい、チャーハンできたよ」 「あ、それ俺だ」 「そっちの人お待たせ。日替わり定食、出来たよ」 「おっ、今日はトンカツか。旨そうだな」  そして今、トウリから日替わり定食を受け取ったグレーのスーツを着た男。白髪混じりの髪、中肉、中背、どこにでもいそうな彼がメンバーの班長松島エイジ、43歳。独身。表向きは会計課で日々、遺失物の管理に精を出している。 「まいど、どうも」  トウリはエイジを見て、にやりと笑った。
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