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新たな敵
カイルがいた別荘を出て、あたしたちは徒歩で北に進んだ。彼を残していくのは辛かったけれど、ずっとここに留まるわけにはいかなかった。カイルが亡くなった翌日、別荘の隣に二人で穴を掘って、彼を弔った。あたしたちはただ無言だった。ここでどんな言葉を発しても、虚しい気がした。
別荘の横には柊が白い花を咲かせていた。棘のある葉に注意しながら、枝を少し折り、カイルが眠る前に置いた。
きっともうここには戻って来ない。口には出さないけれど、戻って来ることはないだろうと思っていた。あたしたちに残された道は、前に進むだけなのだ。進んだ先に、きっとある、あたしたちの『楽園』を信じて、ただ前を見るしかない。
昼間は息を顰めるように休んで、夜になってから移動する生活が続いた。日に日に寒さが厳しくなってくる。人目につかず、なおかつゆっくりと休める場所も簡単には見つからなかった。やっと見つけても、かろうじて雨風が凌げる空き家や地面がむき出しの掘っ立て小屋だ。
ある日のこと、小屋で休んでいると、遠くからかすかな物音が聞こえた。ショウと目配せをして、外の様子を伺う。持っていた双眼鏡で音がした方向を確認すると、数百メートル先に2人組の男の姿が見えた。山の中には不釣り合いなスーツ姿だ。
一人は40代、もう一人は20代。2人とも上着のボタンをかけ、左腕を身体から少し離している。おそらく左脇の下に拳銃を吊っているはずだ。耳にはイヤホンを装着している。間違いない。あの人たちは……。
小声でショウに囁きかける。
「あの人たち、きっとTNTのメンバーだよ。他の都道府県にも存在しているって、噂で聞いたことがある。あの隙のない雰囲気は間違いない。きっとあたしたちを探しているんだ」
「今まで見つからなかったのが、ラッキーだったんだ。何とか切り抜けないと」
「あの人たちもトウリのように、仲間を殺したのかな」
トウリが言った話が本当なら、あの人たちが集落を襲撃した可能性もある。
「もしもあの人たちが集落を襲った人間だとしても、殺すのはやめよう」
「でも、ショウ……」
「絶対に殺しちゃだめだ。撃ったとしても、時間を稼ぐだけ。僕たちは、とにかく逃げよう」
「分かった」
渋々頷いた。彼が言いたいことはわかる。集落を襲った人間を殺したところで、何一つ解決しないことも。あたし達がするべきは、ただ前に進んで二人だけの楽園を作ることなのだ。
「どのみち、あの二人には見つかるだろう。隙をついて逃げ出せば、すぐに応援を呼ばれる」
「そうだね」
それよりも……とあたしたちは銃を手に堂々と二人の前に立ちはだかった。
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