新たな敵

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「あたしたちを探しているんでしょう?」 「動くな。両手をあげて」  探している人物が、いきなり現れるとは思っていなかったようで、男たちは一瞬怯んだ。  あたし達が銃を向けているので、男たちは素直に両手を挙げた。 「全く気がつかなかった」 「さすがだな」 「無駄口叩かないで、一つ教えて。あなた達が、あたしの家族を殺したの?」  二人の顔を交互に見て、反応を伺った。 「何の話だ?」  若い方の男が怪訝な顔で首を傾げた。しかし、もう一人の男はじっとあたしたちの顔を見ている。連日指名手配されている顔だ。今更、確認する必要もないだろう。男は今のあたし達ではない何かを見ていた。そしてあっと小さな声をあげた。 「まさか……お前たちはあの時、島にいた子供か。なるほど。それで上が躍起になって探しているのか。あの時に生き残った子が二人いて、おそらくは海で亡くなっただろうと言われていたが、生きていたとは」  唖然とする男の顔を見て、体の奥からむくむくと怒りの感情が湧いて来た。 「あなたもあたしの仲間や家族を殺したんだ」  あたしの声じゃないような冷たい声が、喉の奥から出た。この言葉が凶器なら、間違いなく目の前の男を切り裂いていただろう。 「それは……」  男は口ごもる。隣の若い男が、訝し気にあたしと仲間の男を交互に見て、言った。 「何の話ですか? この二人は警察官でありながら、テロリストだった危険人物でしょう。早く応援を……」  若い男の手が微かに動く。彼が銃に手をかけるよりも早く、あたしは年上の男に銃口を向けた。 「動かないで! 少しでも動いたら、この人の命はないから」  トリガーに手をかける。あたしの中で、目の前の男を、家族や仲間を殺した男を『撃て』『撃つな』と鬩ぎあっている。 「撃っちゃだめだ」ショウが言った。 「でも! この人は、仲間を殺したんだよ」  脳裏にまたあの惨劇が過った。この人やトウリやその他大勢の様々な部隊の人が、容赦なく、あたしたちに銃弾を浴びさせている光景が浮かんだ。  できることなら、集落を襲った人間全ての居場所を突き止めて、同じ目に遭わせたい。ショウは友人や、妹達の命をあっさりと奪ったこの人達を許せと言うのか。 「レイラ、この人にだって、きっと大切な誰かがいるはずだよ」  ショウが穏やかな口調で告げた。ショウの言葉を聞いた男は、ゆっくりと口を開いた。 「きみの家族には申しわけないことをした。ただ、さっき彼が言ったように、私には大切な人がいる。大切な人がいるこの国を護るために、脅威になるものを排除した。そのつもりでいたし、今でもそう思っている。これから5分だけ、猶予をやる。私達の前から消えなさい」 「班長、何を言っているんですか? こいつらは射殺命令まで出ているテロリストですよ」  同僚の男は困惑した表情で、仲間を見ている。 「キミたちがテロリストではないことは理解している。私も、あれからいろいろと調べたからな」そこまで言って、男は若い同僚に視線を移し続けた。 「詳しくは後で説明しよう。かなり長い話になる」  若い男は静かに頷いた。 「分かりました。班長の意思を尊重します。俺たちは何かを犠牲にしても、恨まれても、国家の命令には従わなければいけない。そう教えられてきました。それを教えてくれた班長が言うのだから、よっぽどの理由があるんでしょう。二人とも、さっさとここから立ち去ってくれ」  おそらくこの二人の間にも、絶対的な信頼関係があるのだろう。班のみんなとエイジ班長のような。たがいに命を預け合い、信頼して背中を任せられる相手なのだろう。 「早く行きなさい。ここには私たち以外、誰もいない。県境を越えるまでは誰にも見つからないだろう」 「ありがとうございます」ショウが軽く頭を下げる。 「それでもあたしは貴方を赦さない。赦さないってことだけは覚えていて」 「行こう、レイラ」  ショウに促され、あたしたちはその場を離れた。
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