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表には出せない大金を所持している男の噂を聞いたのは、その少し後だ。犯罪がらみで得た金を、少しだけ頂こうと翔は言い出した。ショウはあまり乗り気ではなかったが、翔は簡単に手に入ると言い切る。
男の家は、コンクリートの二階建て。入口に防犯カメラがあるが、隣接する家の屋根伝いに侵入すれば、見つかる事はない。金庫の場所も、開け方も、男にパシリのようなことをやらされていたから、この眼で見て覚えている。大丈夫だと翔は言った。少しくらい金が減ったって気づかないよと自信満々だ。
早く親元に帰りたいのかと思ったショウは、渋々ながら引き受けた。
「ショウの運動神経があれば、あいつの家に忍び込める。簡単だよ」
ことなげに翔は言った。
「帰ったら、これをお袋に渡そうと思ってさ。日雇いで働いた金を貯めて買ったんだ」
彼は腕時計を取り出した。ボタンを押すと時刻が音声で表示される。なるほど、いちいち見なくても時間が分かる。
「へぇ、便利だね。お母さん、きっと喜ぶよ」
「今回手に入れる金と、この時計を渡してやるんだ。お前も彼女に会った時、プレゼントの一つでも用意しておいたほうがいいぞ。彼女が好きなモノはなんだよ」
翔がにやりと笑う。
ショウは首を傾げた。レイラが好きなものは何だろう。シルバーのペンダントはあげたけれど、他にプレゼントらしいものは渡したことがない。何を渡しても、彼女なら喜んでくれるような気がする。
「さぁ、僕がいたらそれでいいんじゃないかな」
「はぁ? なんだよ。のろけかよ。面白くねぇな」
翔は声を出して笑った。ショウもつられて笑った。
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