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雨宿り(青鬼とその弟子編)
「はぁ……びしょびしょです」
「誰のせいでこうなったと思ってる?」
「私のせいです。ごめんなさい」
午後。善と赤髪が遊びに行くと出てったその数十分後、小娘が俺の居る客間へとやって来た。
「折角の天気です。私達も遊びに行きませんか?」と。
断る理由は無かった。だが面倒臭い。
ただ、小娘が駄々をこねだしたらもっと面倒臭い。
故に仕方がなく了承し、寺を後にした訳だが。
寺から少し離れた所で、急に降りだした雨。その後は加速する様に雨脚を強め、適当な場所を見つけ雨宿りをする事に。
そして今に至る。互いにずぶ濡れ。衣服が肌にべったりとつくこの感触が非常に気持ち悪い。
「あんなに晴れてたのになぁ……本当にごめんなさい」
申し訳なさそうに苦笑を浮かべる小娘。そうだ、お前のせいだと。折角だとかほざくから、
一から十まで着飾ってやったと言うのに……どうしてくれんだ?
こちとら苛立ちが募るばかりよ。
「お前の吉凶に振り回されるのは慣れたもんだがな……それでも熟よ」
「今日は沢山の雨男さんが外出してるんですよ! この雨までは私のせいじゃないですから!」
相も変わらず、抜けた理論を展開しやがる。
コイツの阿呆さ加減には毎度の事ながら付き合いきれない。
「それか――鬼が泣いてるから……、ですね」
「あん?」
俺を一心に見上げた碧眼は、色鮮やかに濡れていた。
不意に触れられた頬。
冷めた指先は、流れ落ちた雫を辿る様にゆっくりと落ちていく。
「一説によると、雨は鬼の涙とも言われていますから」
挑発的な微笑。鋭利になった碧眼。変に蠱惑的な小娘の事だ。鬼と言えば俺だ。と、そう言いたいのだろう。
「俺が泣いてるとでも?」
随分と馬鹿げた発言なのは百も承知。だが敢えて、その挑発に乗ってやろう。
滑り落ちた手を捕らえ、睨め回した小娘の顔。
普段は至極あどけない顔をしていても、こんな時ばかりは女の顔をしやがる。だからコイツは面白い。
「弥一さんは喜怒哀楽の中で、“哀”の感情が非常に読みにくい方ですから。
子供心に、一説を信じてみるのも有りかなって思ったり」
小娘の淫靡な部分。
それはいつも持ち前の無邪気さの中に隠れている。
それを如何に上手く引き出せるかでコイツは変わる。
「だとして……、俺が泣いていたらお前はどうするつもりだ?」
「その時は……弥一さんの良いように」
殺し文句、か。
今更ながらに手慣れたもんよ。
どう誘引すれば俺が悦ぶのか。
この小娘程熟知して動ける女はそういないだろう。
「じゃあ脱げ」
「街中ですので無理ですね」
「元より人通りが疎らな場所だ。バレる事はない」
「バレると思いますよ。普通に考えて」
「誘って来たのはお前だろうが」
「確かに遊びには誘いましたが、そっちの遊びまで誘ったつもりはありませんので悪しからず」
「…………」
前言撤回。爽やかに言い切りおって……
嫌味だけは一丁前。
やはりこの小娘にはつくづくだ。
「……でも、雨がもし本当に鬼の涙だったとしたら――」
「……」
「それって、素敵な事ですよね。
その涙が恵みとなって、人々の生活を助けるのですから」
「……はっ、」
「涙知らずの青鬼さん、たまには弱音を吐いてくれても良いんですよ?」
「阿呆が」
「えへへっ……頼りない弟子ですが、何かあればいつでも言って下さいね。相談乗りますから」
実に無邪気な微笑み。居心地は悪くねぇ、か。
たまにゃあ良い。こんな風に、小娘と平穏に過ごす一時も――
END
【オマケ】
「そう言えば……」
「何だ」
「昔、千里様が教えてくれたんですけど……雨は鬼の小便でもあるって」
「ほう。で?」
「『で?』って言われましても、ねぇ……」
「かけられたいのなら「それは遠慮……、ていうか御断りします」
「ならば飲みたいのか。はっ、とことん酔狂な奴よ」
「そんな事一回も思った事ありませんけど。変に解釈ぶっ飛ばせないで下さい」
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