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ここまでの話を聞いて下さった方、ありがとうございます。
僕は、彼の元後輩…自分は今でも先輩の後輩なんですがね。
ええ。あの角の店でコンビニをやらせてもらったオーナーです。
まず、結果だけを報告しますね。
生きて戻って来れました。
僕も彼女も。
素晴らしい二人の先輩の命と引き換えに。
僕の先輩は笑って何も言いませんでした。
なので、彼女の先輩から何があったのか聞きました。
僕が行方不明になったこと。
謎の店内放送のこと。
ついに僕の彼女も行方不明になったこと。
その後、先輩方が何をしたのか。
詳しく言っても解んないだろうからと、大雑把にしか聞けませんでしたが。
彼らは僕たちを連れていったものが何か知っているようで、それの大親分の所へ行ったらしいです。
さくら公園にある桜の樹ですね。あれにも何か言い伝えがあるそうです。
その桜がこの町の桜の中で一番偉いんだそうです。
それで、その桜に直談判したそうです。
「あのコンビニの下の桜、食い過ぎ。
俺たちの大事な後輩が持ってかれたんだけど、どうしてくれんの?
余所者だけど、地元の奴ら(僕が雇っていた従業員たちのことです)にも優しかっただろ?
返せよ」
初めて会った時から、先輩って口悪いのがたまに傷なんですよね…
本当に尊敬するいい先輩なのに。
その桜は先輩に答えたそうです。
「私の身内が迷惑をかけた。
あれには私も困っている。
確かに最近あれは食べ過ぎだ。だが、すぐに餌を返せと言っても返さないだろう。
代わりのものを差し出せば話は違ってくるだろうが」
「なら、ここに一つ代わりがあるぜ」
「二つ目もあるわよ」
自分達が代わりになるから、僕たちを返せ。
桜は了承したそうです。
ただ、先輩たちは自分たちは地元民だからと言って条件を出したそうです。
一つ。
自分たちで死ぬから、それまでは手を出させるな。死体は好きにしていい。
一つ。「約束」があるからしばらく時間を寄越せ。「約束」を守らなかったらそっちも困るだろ?
この二つの条件にどんな意味があるのかは、僕たちにはわかりません。
でも、近いうちに先輩方はいなくなるのでしょう。
そして、きっと二度と会えなくなる。
僕たちの救いは、まだほんの少しだけ彼らとの時間が残されていること。
あの角でやっていたコンビニは移店しました。
桜ヶ原のすぐ外に。
桜ヶ原を地元に持つ従業員たちが、そのままついてきてくれたんです。もちろん彼女も。
僕は、本当に恵まれています。
あの日。
桜の根に足を縛られ引き摺られながら、無意識に「タスケテ」とメールを打ったスマホには僕たち四人で写った写真が大切に保存されています。
きっと最期になるであろうその写真には、僕と彼女の自慢の先輩夫婦が輝くような笑顔で写っています。
ずっと僕たちを大事に大切にしてくれたあの人たち。
僕たちは、あなた方から教えてもらったもの、継いだもの、いただいたものを決して忘れません。
今までも、これからも大好きな自慢の先輩方。
「ありがとうございました。
さようなら」
写真が映された画面に、ぽつりと水滴が落ちていった。
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