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「――でもね、化け物に追いかけられた時にはね、決して振り向いたりしちゃ、いけません」
低く、陰鬱に語る声が、脳裏に甦る。
「うっかり振り向いて、化け物と顔を合わせたりした日にゃぁ、食われちまうと申しますよ。頭からこう、バリバリとね。骨の欠片一つ残さずに――」
今宵の百物語の大取で、カリリ、コリリ、ピチャピチャと巧みな擬音まで入れながらそう語ったのは、百舌の彦八という芸人で、日頃は両国広小路の大道で、役者の声色を使った一人芝居や、季節に応じて時鳥の初音やら虫の音だのを聞かせたり、鶯の谷渡りなる芸を披露して人気を博しているらしい。
百舌という二つ名は、この物真似の芸から来ているのだろう。
鳥の鵙も、普段は不吉で耳障りな声で鳴くが、己でもそれが分かっているものか、さえずりは鶯や雲雀、四十雀など、様々な鳥の声真似で鳴くから、百舌鳥と当て字をするのだという。
本来の百物語であれば、参加者が一つ話をするごと灯芯を一本引いてゆき、最後の百話目でついに暗闇となった時、実際に化け物が出るの出ないの、という趣向なのだが、これではたとえ秋の夜長でも、悠長にしていては夜明けまでに百話を語り終えられない。
誰しもが、面白い怪談をいくつも知っているわけでもない。
結局、どこかで聞いたような短い話が延々と続くつまらない会合になることも多いらしいが、今回の集まりは百物語などとは名ばかり。
怪談好きな大店の隠居が、月に一度、小梅の寮に四、五人の客を招いて各人にとっておきの一話を話させるというものだ。
大崎も、さして面白いとも思わないが、郷里に伝わる地獄沼の伝説を披露した。
たったそれだけのことで、日頃お目にかかることもない豪勢な料理と灘の酒でもてなされ、おまけに一両という金が手に入ったのだ。
こんなうまい話は滅多に無い。
だが──
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