#4果実

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 その夜、千比絽は布団の中から咲に電話をかけた。 「ねぇ、咲ちゃん。僕って何か探してるように見える?」  どうして?と聞いた咲に、千比絽は崇が言った言葉をそのまま説明した。  「へぇ、さすが崇くん、大人。千比絽の事よく見てるね」 「僕は子供で、崇は大人?」  ムッとした千比絽の声に咲が笑う。 「千比絽だけじゃないわよ、みんな何か探してる。ほら、千比絽の好きなバンド の歌にもあるじゃない。生まれたら死ぬまで何か探してる、って」 「あぁ、じゃ咲ちゃんもなんか探してんの?」 「もちろん!会社での自分の居場所とか?」クスクスと笑う咲の声が耳に心地良い。 「おばちゃんに睨まれないように?」そうそう、なんか悲しくなってきた、なんて言ってる咲はどこか楽しげで、千比絽はその癒される声に包まれながら、眠った。  そうか、みんな何か探してるのか。  放課後の学校は雑然としている。いや、学校なんて一日中そんな感じだけれど、放課後は、やっぱり朝に思うそれとは全く違う。  千比絽は久々にグラウンドに顔を見せた。陸上部のメンバーは準備運動をしている最中で、千比絽には気が付かない。遠巻きに見ていた千比絽は、みんなが一斉に外周を走る為に、校門へと向かって行くのに合わせて、グラウンドを離れた。  途中、孝之と崇が千比絽を追い抜いていく。その後ろ姿を見た瞬間、千比絽の足は勝手に動いていた。鞄が邪魔だな、なんて考えながら、一心に校門を目指す。息を上げて走る千比絽を、孝之が驚いた顔で見た。  千比絽は崇に並ぶと目配せをして、そこから二人は一斉にスパートをかけた。雑音もなにもかもが流れて行く。  校門まで来たところで、二人はゴールを切ったかのように座り込んだ。  千比絽と崇は顔をみあわせるけれど、息が上がって声にならない。そのうち、どちらからともなく、吹き出し始めた。段々と声が大きくなり、ひとしきり笑いあったところで千比絽が言った。 「気分いいな」 「だろ?」  感慨に浸っていると、目の前に影が落ちる。見上げた先には、見慣れた顔があった。 「咲ちゃん、どうしたの?」  驚いた千比絽と崇に咲は、 「ちょっと顔が見たくなって、早退して来ちゃった」と肩を竦めた。 「悪い大人だな」  立ち上がって、制服を叩く。鞄を背負い直して、千比絽は崇を振り返った。 「崇、今日は無理だけど、明日は部活出るから。新島に言っておいて、じゃな」 「ああ!了解。さようなら、咲さん」  崇と咲が手を振り合う姿を見て、やっと追い付いて来た孝之が、後ろであの美人だれ?なんて騒いでいる。孝之の不思議がる声、千比絽は笑いを堪えるのに必死だった。  彼女の手を強く握りしめ歩き出すと、いつもの道も空気すら違って清々しい。  明日、謙遜しながら自慢してやろう。  ふと見上げればそこには、高く広い空があった。
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