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#3小さな恋の物語
人付き合いが苦手だ。
そんな私がどうして、陸上部のマネージャーなんかになってしまったのか。選択を誤ったとしか言いようがない。
高校二年の秋、三年生は部活を引退し、二年生がその跡を引き継ぐ事になった。もう、先輩はいない。
(やっていけるかな)
庄野先輩は優秀なマネージャーだった。私とは違い、誰にでもきちんと接する事の出来る優しい先輩。同じ女の子としても、憧れの存在だった。
そんな人の後に私って‥‥‥
記録を計る為のタイムウォッチを眺めて高橋真由は溜め息をついた。
「高橋!今のタイムは?」
顧問の新島から声がかかる。
「あ、はい。えっと‥‥‥」
「記録、頼むな」 新島が困った顔を浮かべて笑った。真由が「はい」と答え、小さく溜め息をつくと、後ろからポンと頭を叩かれた。
「溜め息、また出てたぞ」
振り向くと同じクラスの相原崇がいた。二人は同じ陸上部でもあり、何かと崇が真由にちょっかいを出していた。
「煩いな‥‥‥あたし、もう辞める」
「出た、口癖。それ毎回言ってるけど、結局いるじゃん」
呆れたように笑う崇を睨むと、真由は今度は本気だからと言って目を逸らした。
「好きにしろよ」
低く呟かれた崇の声に真由は顔を上げた。けれど、そこにはもう崇の姿はない。
グラウンドに駆けて行く崇の後ろ姿を見つめ、真由は何であんたが怒るのよと小さく舌打ちをした。
「ただいま」
真由が部活を終えて家に帰ると、もう夕方の六時を回っていた。
自室に入り、私服に着替えると携帯をチェックした。解ってはいたが、メールや着信の履歴はない。 友達はみな、真由が部活に行っている事を知っている為、放課後のお誘いはこの二年間ほとんど無い。
「真由!ご飯!」
母の呼ぶ声がする。毎日の決まったこの出来事。
真由は溜め息と共に携帯を机に置くと部屋を出た。夕飯を終えて、お風呂に入ると自室に籠もり机に座る。引き出しを開けるとそこには随分前に書いて置きっぱなしの退部届があった。
取り出してじっと見つめると、鞄に閉まった。
(よし‥‥‥)
明日こそ出そう、そう決意を固め真由はベッドへと身を横たえた。
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