#4果実

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#4果実

 何事もそこそこ。器用貧乏なんだ、と孝之は笑う。  それに調子を合わせて僕も笑った。僕なんか、器用貧乏にすらなれないよ、と自分を卑下したりして。  卑下、はて、事実の場合は卑下とは言わないのかな。本当に僕には何の取り柄もない。    でも、それって悪い事?  千比絽は目の前に横たわる咲の髪を弄びながら、今日学校で交わした友人とのやり取りを漏らした。咲は静かに微笑む。そして千比絽を抱き寄せ、ううん、普通と彼の頭を撫でた。 「ちょっと咲ちゃん、子供扱いは止めてよ。地味に傷つく」 「だって子供じゃない。で、千比絽はその孝之君の何が気に入らないの?」 文句を言いながらも、撫でられるまま千比絽はううんと、唸ってこう言った。 「謙遜しながら自慢してくるとこ」 「あぁ、なるほどね。なんか、可愛い」  クスリと笑う咲に、千比絽はたっぷりと深いキスをする。 「子供相手にこんな事してる咲ちゃんは悪い大人だな」 「そうかな、見た目ほどには大人じゃないし、わたし」  ふざけあいながら、二人はまた身体を合わせる。学校から直行した彼女の部屋。千比絽はここほど居心地の良い場所を、他に知らない。  全てをだらしなく吐き出して、千比絽は眠りについた。 「千比絽!ち~ちゃん、起きて!」  千比絽は自分の頬をつつく咲の手を掴むと、薄く目を開けた。 「それ、ホントに止めて。母さんが出てくる。ち~ちゃんって未だに呼ぶんだ」 「そうなんだ、ほらもう起きて帰らないと、ママに叱られるわよ?」ころころと笑う咲の声が、ちょっぴり恨めしい。  ゆるゆると上体を起こして、千比絽は時計を睨んだ。針は夜の八時を指している。家にはバイトだとメールをしておいたが、そろそろ帰らないと面倒な事になりそうだった。  身支度を整えて、部屋を出る。玄関で見送る咲に、もっとうちの近くに越しておいでよ、と言ってみた。 「ここ、遠いんだよ。近かったらもっと一緒に居られるのに」 「ダメ。わたしの職場から遠くなっちゃうもの。それに、遠いから良いんじゃない」  少しばかり考えを巡らせ、それもそうか、と咲に別れのキスをして、千比絽はやっと玄関を出た。  帰りの電車に揺られながら、確かに彼女の家が自分の生活圏内に無くてよかった、と思う。  あぁ、明日、小テストあったな。  家が近づくにつれ、急に現実が襲ってきて思わずひとりごちた。
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