君ガ為メ

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 翌日、さっそく隣町の吉野さんの家に行ったわ。一階平屋の純和風の家で、物もほとんどなく全体的にこざっぱりしていて生活感はあまりなかったわね。  厳格そうなご主人の遺影に挨拶をして、特訓は始まったわ。 「お手柔らかによろしくお願いしますね奥山さん。いえ、先生」 「先生だなんて……」  私も言われ慣れてないから満更じゃなかったわね。 「百人一首は歌を暗記をしないことには始まりません。ですがいきなり全部をいっぺんに覚えろというのは無理な話なので、まずは十首だけ完璧に覚えることを目標にしましょう」 「はい、先生」と力強く頷く吉野さん。 「覚えやすい札と言えば一字決まりの歌ね。む、す、め、ふ、さ、ほ、せ、から始まる歌は一首ずつしかないのでまずはこの七首を覚えてみてはどうかしら」 「はぁ、ですがねぇ……一文字聞いただけですぐに反応できるわけじゃないしねぇ……」  どうやらなにがなんでも篠原さんから一枚取りたいらしく、そのことしか頭にないようだったわ。 「なら逆に五字決まりの歌を覚えましょう。五字なら読むのに一呼吸置くので見つけるのに多少は時間が稼げますし」  そう言って私は読み札の束の中から六枚を取り出した。
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