100回目の恋

1/1

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

100回目の恋

「沙織ちゃ~ん!!」  まるで自分の部屋に入るように当然のように上がり込んでくるこの女は加奈。幼稚園の頃からの幼馴染だけど高校は別になったが、変わらずこの調子で上がり込んでくる。要件は想像ついたので聞いてみる。 「何?また誰か好きになったの?」 「ぇ、なんで分かったの??沙織ちゃんってエスパーだった!?」 「いや、あんたそれ一体何回目だと思ってんの?」 「ん~~、15回位?」 「100回よ、100っ回!桁が違うわっ!」 「なんと記念する回数だった!お祝いしなきゃ!」 「…それ、不名誉な方だからね。」  本気で驚く加奈。この子のこういうなんでも楽しみにできるところは魅力だと思う。…見習いたくないけど。ちなみに99回とも好きになっただけでなく告白までしてるのはスゴイと思う。 「あたしらもう高三だけどさ、中一からあんた半月に一度くらいのペースで人を好きになってるじゃん。雑誌の影響だったっけ?本当に付き合いたいと思ってるの?」 「思ってるよ!でも、いつも振られちゃうんだよね~。でも、今回は記念すべき100人目!今回こそは恋人になる!!」 「じゃあ、今回は誰?」 「同じ高校の高岡誠二君!なんと、今年初めて同じクラスになったんだ。」 「ふ~ん、でどこが好きになったの?」 「一目ぼれ!!!」  それは、好きになったポイントではない。不安を覚えつつ質問を重ねる。 「どこに?」 「……全部?」 「…」 「…」 「なんで疑問形なのよ!あんたそいつの事本当に好きなの!?」 「好きだよ!」 「じゃあ、なんで好きなポイント言えないのよ!加奈今まで告白した時なんて振られてるの?」 「……ホントウニスキナノッテイワレテマス」 「何目をそらして言ってんの!?アタシと同じこと言われてるんじゃない!」  息が荒くなってきたので、麦茶を飲んで落ち着く。見た目は可愛いし、悪い見方をすればアホっぽいけど周りを明るくする事ができるっていうのはモテると思うんだけどなぁ。やっぱり近隣にも広まってるんだろうな恋多き女とか玉砕女とか…。まあ、変な男に引っかかってないって所を考えると男を見る目はあるのかもしれない。…6年以内で100回目の告白しようとしてるけど。  加奈は麦茶を飲みほして拗ねたように言ってくる。 「でも、雑誌に書いてあったんだもん。一目ぼれから始まる恋もあるって。」 「一目ぼれから始まっても、告白した方が相手のどこが好きか分かりませんって言った場合に成功したカップルはいない。」 「じゃあ、私どうすればいいの?明日告白するつもりなのに!?」 「うん、取りあえず告白は後に回そうか。このままだと二週間後に101回目の恋愛相談になるし。」  というかその理由でOKする男の場合間違いなくロクデナシだ。アタシも恋人いない歴=年齢の悲しい女子高校生だけど、それくらい分かる。 「取りあえず、その高岡誠二って男を観察してせめて私に好きな所言えるようになりなってから告白するようにしなさい。いい?絶対アタシの許可でるまで告白はしちゃダメ、守れる?」 「ん~、分かった。」  …これから疲れる予感しかしない。 ピロリ~ン♪ 「メール?」 「そう。」 「沙織ちゃんのメールってそんな音だっけ??」 「……そうよ。他にないなら帰って明日からどうしていくか考えたら?」 「そうする~。じゃあね~」  加奈が家から出ていったのを確認してから息を吐く。天然のクセにそういう所はしっかりしてるのよね。取りあえず、もう一人会う用事ができちゃったか。ため息をつきながらメールを返信して、メールの送信者が家に来るのを待つ。    ■■■ 「沙織ちゃ~ん、大発見!大発見だよ!!」  大声上げながら部屋に駆け込んでくる加奈。数日考えてくるかと思ったら翌日に駆け込んでくるとは…。これ、告白するまで毎日来るんじゃないよね。 「はいはい、何を大発見したの?」 「なんと!高岡君の家、私達の近所だったんだよ!!」 「へ~、…どうやって調べたの?」 「沙織ちゃんの言った通り、高岡君を観察してたら分かったんだよ!学校来てから家に帰るまで!」  そういって、胸を張る加奈。頭痛くなってきた…。念のため窓を開けてサイレンが聞こえてこないか確認する。……大丈夫そうだ、良かった。 「加奈、確かに観察しろっていったの私だけど…それストーカーだから。場合によっては通報されたりするから!そいつの家の近くで誰かに会った?」 「家の近くでは誰にも会わなかったけど、学校で先生に呼ばれたかな。なんでか生徒指導室に呼ばれてお話ししたよ。観察してたけど、男子トイレには入ってません!っていったら頭抱えて保健室の先生を呼んできてた…って沙織ちゃん頭抱えてどうしたの?」  さも不思議そうな顔して聞いてくる加奈。  ヤメテ!勧めた私の心が苦しい!!コイツこう見えて県内TOPの進学校に在籍して学内TOP3の学力だから先生も頭痛いだろう。場合によっては明日職員会議してるのかな。先生呼ばれるくらいだら学校中の噂にはなってるかも。誠二スマン、マジデ…と取りあえず心の中で謝っておく。 「それで、高岡誠二の事は他に何か分かったの?」 「帰りにスーパーで食材買ってたよ!料理できる男の人ってステキだよね~」 「それって、親のお使いじゃなくて?仮に作ってるとしても美味しいか分からないじゃない。」 「そうだけど~。」  ちょっとむくれながら答える。自分が好きな人を変な風に言われていい気はしないかもしれないけど、これは私がやらないといけない事だから仕方がない。 「あ、それと公園で女の子が泣いて困ってたから助けてた!優しい人っていいよね~」 「それは確かにそうね。公園って鶴林公園?」 「そうそう昔よく遊んだよね~」 「…そうね。」 「それじゃ、明日も観察頑張るね~」  そういって、帰っていく加奈。こういう頭痛って薬で軽減できるのかな。…早めに告白できるようになってもらおう。そうでないとアタシの胃に穴が開きかねない…。そんな事を考えながらメールを送る。  …もうひと仕事の前に薬局に行って来よう。    ■■■ 「沙織ちゃ~ん、やっぱり料理上手だったよ!!」  今日も加奈が駆け込んでくる。三日連続は珍しい。いつもなら好きになった連絡の次は振られた連絡でちょっと期間空くから。 「どうやって料理上手って調べたの?人の話じゃアテにならないでしょ?」 「食べたから!美味しかったよ!!」  すごいいい顔して、サムズアップする加奈。いつの間にか観察から直接行動に出てたらしい。 「食べたって調理実習でもあったの?」 「違うよ~。昨日の観察で空き教室で一人で食べてるの分かったから、今日は私もお弁当持ってご一緒しただけだよ~。聞いてみたら自分で作ってるって言ってたから、お弁当分けっこしたんだよ~。私の好きな味付けで幸せだった!」 「…そんな仲いいんだっけ?」 「ん~、ほとんど話したことないよ~。でも、ご飯一緒に食べただけだよ?」  そういうのは、同性でも仲のいい友達とかだと思うけど…。クラスでやったら騒ぎになる。さすが加奈。 「他には何かあったの?」 「他に学校では、しょくい」 「それはいい!!!!!今重要なのは高岡誠二に関する事だけでしょ!!」 「あ、そうだね~。」  分かってくれて良かった。私の頭と胃の安全の為にも、教員がらみの話を聞くわけにはいかない!…アタシ他所の高校に呼び出されたりしないよね。なんだろう聞かなかったらそれもそれで不安になってきた…。いや、もう忘れよう。 「高岡君とは学校では他にないけど、帰りにゲームとか漫画がたくさん置いてあるお店に寄ってたよ。」 「オタクって感じのヤツ?」 「そういうの良くわからないけど、かわいい女の子が表紙に描いてあったよ。沙織ちゃんの部屋にたくさんある感じのようなの~。」  まあ、アタシはオタクだからそういうのを見てたってことか。加奈の家は固いからオタク系どころかゲームとか漫画とか無縁だから細かい所良くわからないでしょうね。 「やってみる?漫画は持ってって読んでもいいけど。」 「どれがいいのか分からないよ~。」 「まあ、取りあえずこれやってみたら?漫画は帰るまでにいくつか選んどいたげる。」 「ありがと~。家に遅くなる連絡だけしとくね~。」  そういって、電話をかけだす加奈。アタシも手早くメールを打つ。 「このゲームって難しい?」 「そんなことないわ。ゲームだけど小説とかアニメに近いから。基本はマウスクリックで文章進めて、たまに条件分岐の選択肢が出てそれを選ぶだけ。」  ゲームを起動してスタートしていくとなるほど~と言いながらクリックしていく。 ピロリ~ン♪ 「メール?」 「そう。ちょっと外行ってくるわ。そんな時間かからないと思うけど、帰りたくなったらそのままにして帰っていいよ。…PC壊されたくないから絶対電源切らないで。」  最後のは意図せず低めな声になって、加奈をびくつかせてしまった。漫画を3冊だけ選んでカバンに入れてあげる。ラノベのがいいかもしれないけど、帰ってそんなに読めないだろうしね。  学校に持っていきかねないので、明日の朝返すように言って外に行く。この3日気苦労が絶えないけど、ゲームするってことは暫く通うだろうな。まあ、今回は適当にさせるわけにはいかないからしょうがないか。そんな事を考えながら、待ち合わせ場所に行く。    ■■■ 「沙織ちゃ~ん、今日も続きしに来たよ~。」  あれから一週間経った。アタシの予想通り加奈は通い詰めている。最初に紹介したのは終わったから今は2本目のゲームをしてる。ゲームをして漫画を読んだ翌日昼休みに話したら話が弾んだと喜んでいた。ちなみにお弁当を一緒にするのは日常になってるらしい。  そして、2週間前が中間テストだったことを非常に感謝してる。こんな通い詰めてて、学力下げようものなら学校だけでなく加奈の親までくる。加奈の家にはアタシの所に通ってるの分かってるから、間違いなく疑われる…。その疑惑正解なんだけどさ。この件が片付いたら絶対勉強させる! 「観察開始から一週間以上経ったけど、高岡誠二のどこが好き?」 「子供が泣いてたら話聞いて助けてるとことか、ネコが行方不明になってる人がいたら一緒に探したりするような優しい所かな。後、お父さん馬鹿にしてるけど、ゲームとか漫画とか好きな事に一生懸命になれるのっていいなって思う。私そういうのないから。」  最後はちょっと乾いた笑いだったけど、一週間でちゃんと言えるようになってる。 「そういえばさ、沙織ちゃん。」 「ん?」 「私に気にせず彼氏とここで会ってもいいんだよ?私も見てみたいし。」 「は?」  何言ってるんだろうコイツは? 「毎日メールしてるの彼氏でしょ?私のメール受信した時と音違うし。好きになったっていうけど、彼氏ができない私に気を使って隠してるんだよね?」  コイツ、この前の間違えメールは受信音の確認の為か。何だろうスゴイむかつく、コイツは一週間アタシが彼氏とのやりとりの片手間に自分の相手をしてもらってたと思っていたのか。アタシが慣れないなりに気を使って対応していたのはなんだったのか! 「……じゃあ、遠慮なく。」  そう言って電話をする。 「もしもし、もう帰ってる?じゃあ、来て!今すぐに!!」  加奈がマウスをクリックする音とスピーカから流れてくるゲームの音を聞きながら待つこと10分。 「なんだよ沙織、電話で呼び出すなん…て」  視線が徐々に私から加奈に移動する誠二。加奈の方も目を丸くして固まってる。この姿を見て留飲も下がったかな。  目をそらしながら加奈が口を開く。 「えっと、沙織ちゃんの彼氏って誠二君なんだね…」 「「違う!」」  誠二とハモって否定する。…理不尽かもしれないけど、誠二に言われると腹が立つ。私に言う時だけでなく、誠二に対しても名前で呼んでたのか、最初は苗字だったのに。 「沙織、今どんな状況なんだ?」 「ん~イラっとして、何となくやってられなくなって取りあえず呼んだ。誠二をアタシの彼氏と思ってることで状況ある程度分かるでしょ。加奈は分かってないでしょうけど…。」  誠二はなんとなく理解した顔してるけど、加奈はぇ?って顔してる。 「えっと、沙織ちゃんと誠二君って前から知り合いなの?」 「誠二あんたホント可哀そうね…」 「憐れむような眼でこっちを見るな…」 「加奈、誠二と高校で初めて会ったと思ってるけど、誠二とアンタは中一と中二でクラスメイトよ。というか、家が近所って分かった時点で中学一緒って気づくでしょ…」  やっぱり覚えてなかったみたいで「え~!!」と叫ぶ加奈。もっと驚愕なの忘れてるんだけどね…。 「あ、二人とももう言っていいわよ。」  これで、気づくか不安だったけど二人とも顔を赤らめて深呼吸する。 「ずっと前から、誰にでも分け隔てなく接して皆を笑顔にするところが好きです!付き合ってください!!」  呼吸を整えるのが誠二のが早かったらしく、誠二が先に言った。加奈は顔を真っ赤にしながら「よろしくお願いします」と返してる。あ~、やっと肩の荷が下りた気がする。 「沙織ちゃんって誠二君とメールしたり会ってたりしたって事は…」 「そりゃ、誠二の方の相談に乗ってたから。まあ、加奈が好きになった時点で両思いだったんだけどさ。」 「酷いよっ!この一週間いらなかったじゃない!!」 「アンタさ、もしアタシに告白してくる男がいて、どこが好きかは分からないけど付き合って!とか言われたらどう思う?」 「そんなのダメ~!!そんな男と付き合ったら沙織ちゃん不幸になっちゃうよ!!」 「その男、一週間前のアンタだから。そんなのいくら幼馴染の贔屓目でもさせるわけにはいかないでしょ…」  床にのの次を書いていじけだした。一週間前の私って…とも言ってる。 「ところで加奈ちゃん、俺と初めて会ったのっていつか知ってる?」 「高校だと思ってたけど、中一の入学式なんだよね、クラスメイトだったんだし。」  と申し訳なさそうに加奈は言う。アタシ達はため息をつきながら言う。 「「違う!」」  加奈は訳が分からないという顔している。 「俺たち三人幼稚園からの幼馴染。よく鶴林公園で一緒に遊んだよ。」 「もしかして、誠二君ってセーちゃん?」  ようやく、分かったらしい。加奈は小二の終わりに親の都合で転校して、中学入学と同時にこっちに戻ってきたから、分からなかったのだろう。アタシはずっと一緒だったからあんまり変わったように感じないけど、現実に気づいてない幼馴染がいるわけだし。 「なら、中学の時に声かけてくれればいいじゃない~。なんで他人みたいにするの~?沙織ちゃんだって分かってたんだから教えてくれてもよかったのに。」  誠二はバツが悪そうな顔をしているので、私がバラす事にした。 「本人の強い希望で言えなかったのよね。加奈って家の方針で漫画とかゲームとかアニメとか全然しないでしょ。誠二は小学校高学年から思いっきりハマってたから、それで軽蔑されるのが怖かったみたい。だから、誠二が直接傷つかない形で確認したって事。」  小学生の女子からは実際そういう事言われもしてた。 「それまでの過程で学校で変な噂立ってたりするけど…」 「え~?なにかあったの?」  さすが加奈…。加奈の話の中だけでも汲み取れるのに、その本人は何も気づいてないとは…。まあ、カップルになったんだから自分で対処してもらおう。 「あ、加奈次の期末絶対順位落とさないでよ。」 「最近勉強してなかったけど、頑張る~。あ、皆大学特に拘りないなら一緒のとこに行こうよ~。幼馴染三人で一緒に遊べるし~。」 「まあ、アタシは拘りないけど。誠二アンタどこまでなら行けるの?」 「なんで、俺基準なんだよ!一応俺県内一の進学校にいるんだぞ!」 「その進学校の下層の学力でしょ。」  家から一番近い高校に行ったアタシは、進学よりも就職に力を入れている高校に通ってる。それが誠二のプライドに触ったらしい。入試の時はゲームや漫画封印して死ぬ気で勉強してたからというのもあるのかも。 「沙織はこの前の全国模試、全国で何位だったんだよ!?」 「121位」 「やっぱり、沙織ちゃんって頭いいよね~。」  誠二は土下座した。まあ、桁がいくつか違うのだろう。やっぱり誠二が行けるところで考える事になりそうだ。大学は一緒の所に行ってもいいかな、もうカップルになったんだから。  まったく、せっかくアタシが推薦来てたコイツらの高校受けなくて、教員に文句言われながら別の高校に行った意味がなくなるかヒヤヒヤしたじゃない。 「アンタらのデートする時教えなさいよ。乱入するから。」 「沙織ふざけるなよ!!」 「……誠二あんたアタシに文句言える立場だと思ってんの?」  悔しそうに言葉を詰まらす誠二。 「うん、皆で遊んだ方が楽しいよ~。」  加奈の天然スマイルも出たので、もう誠二に言える事は何もない。  これくらいの楽しみは貰ってもいいでしょ。アタシの初恋あげたんだから。  ああ、大学生活楽しみね。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加