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いいわけ
「どうなん?」
色々聞きたいことはあっただろうけど、嫁は例のパンツdeデート事件には、一切触れず黙々と晩御飯を食べた。
自宅のダイニングにいた。反対側に嫁が座っていた。俺から切り出すのも何か言い訳するみたいで、タイミングをつかめずにいた。だから俺も黙ってご飯を食べて、ビールを少し飲んだ。
食べ終わって少しリビングでゆっくりしようかと、思ったタイミングで嫁が聞いてきた。
「どうなんって?」
「例のアレ」
俺の目を真っ直ぐに見て、俺の一挙手一投足を何一つ見逃すものか、そういう姿勢で彼女は構えていた。
「なんもないって。ご飯食べて、ちょっと公園で話ししただけ」
俺は嫁の目の圧力に気おされて、彼女をまともに見ることができなかった。
「ふーん。何食べたん?」
「何って、あんま覚えてないけど、フレンチみたいな感じやったと思うよ」
「フレンチ!ええもん食べてるなあ…」
「俺らも時々ええもん食べに行ってるやん。焼肉とか、寿司とか」
「財布はこっち持ちでな!」
俺は家族で外食するときなどは、財布を開かない。なんていうか、稼ぎのほとんどは俺が働いたお金で、いってみればどこに食べに行っても俺が払ってると同じだと思っているのだ。
「そやけど、小遣い月に2万ではそんなにおごったりでけへんやん」
ええ大人が月2万で、何ができる?立ち飲み屋で、にらみ豆腐で、焼酎3杯飲んだら、もう1000円超えるんやで。
「月2万の小遣いやけど、嫁に奢る金はなくても、若いビクトリアズシークレットのパンツくれる、べっぴんさんの歌手のイタリアンは奢れるんや」
「そう、フレンチじゃなくてイタリアンな。青山のお洒落な店やったな」
嫁は記事を舐めるように、はしからはしまで丹念に読み込んだんやろう。
「義母さんから、電話あったで。ごめんなって。悪気はないねんって。ただアホなだけやねんって。許したってって」
俺にも母親から電話があった。とにかく言い訳せんとひたすら、謝りやって言うてた。
「ちょっと、いろいろあってな。彼女も大変な時期やったし、俺の仕事にも影響でそうやったし、フォローせんとあかんなって…」
汗が額をつたう。えーっとポケットにはいってるのは例のビクトリアズなんとかのパンツやから、どっかティッシュないかな。
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