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マシューは兎の血を引く獣人だ。足は速い。
しかし熊獣人である八百屋の店主が本気で追いかけてきたら、リーチが違い過ぎる。逃げ切れるはずもなく、マシューは店の脇道を入った薄暗い裏通りであっさりと捕まり、その場で引き倒されてしまった。
「観念しろこのコソ泥兎が!!前々からうちの果実盗んでやがったな!?おめーが犯人だな!?あぁ!?」
「ひっ…ごめ、ごめんなさ……!」
「ごめんなさいで済むと思ってんのか!?舐めてんじゃねーぞ!!」
大きな身体でのしかかられながら大きな声で罵倒され、すっかり萎縮したマシューはガチガチ歯を鳴らして頭と顔を両腕で守るように隠した。
殴られるか蹴られるかその両方か。辺りには引き倒された瞬間にマシューの手を離れた苺や果実が散乱している。ああ、きっと店に帰ったらまた怒られるんだろう。マシューはこれから自分の身に起きる痛みを想像してギュッと目を閉じた。瞳に溜まっていた涙が滑らかな頬を伝っていく。その様を見ていた八百屋の店主はピタリと動きを止め、やがてにんまりと口の端を持ち上げた。
「そうだなぁ…許してやらんこともないぞ?」
ゾク、と背筋に何かが這った。
八百屋の店主は舌舐めずりをしながら、ボロ切れのようなマシューの服の裾から手を滑り込ませる。素肌に触れる大きな無骨な手の感触にマシューは何をされようとしているのか悟って目一杯暴れた。
「この、暴れんじゃねぇ!おめーに拒否権があると思うのかこのコソ泥め!!兎なら兎らしく発情して腰振ってろ!!」
「やだ、いやだ…ッ!ぼく、僕Ωじゃない…!!」
この手が何をしようとしているのか知っている。愛玩用奴隷として売られていった奴隷たちが何をされているのか、何をされるために買われていくのかマシューは知っていた。
痛みに喘ぐ者、偏った性癖の餌食になる者、中には過ぎた快楽に正気を失った者もいた。
マシューは必死に身体を捻りなんとかして抜け出そうともがいた。しかし熊獣人の大きな身体はビクともしない。言葉で態度で全身で拒否しても、八百屋の店主は益々興奮したように息を荒くした。
だれかたすけて。
藁にも縋る思いでそう叫ぼうと大きく息を吸った。
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