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響き渡った怒声に振り返ると、鬼の形相をした黒豹の獣人がズンズンこちらに歩み寄ってくる。マシューは思わず飛び上がりサッとリチャードの背に隠れた。
「貴方という人は!!何度申し上げればお分りいただけるのか!!このゲオ…ジョージ、あれほど次はリードに繋ぐと…!!!」
「どうどう、落ち着けジョージ!聞いてくれ、これには海より深い訳が!」
「いつも言いますが私は牛ではございません!!全くもう!!」
「ほらまたモーって言った!」
「あああもう!!!」
ジョージと呼ばれた男は陽の光に照らされて黒々と光る美しい毛並みをぐしゃぐしゃと両手で掻き毟ると、ジロリと─いや睨んだつもりはないのかもしれないが─リチャードの背後で震えるマシューを見た。
「…そこの少年、主人が何か失礼をしてはいないだろうか。」
「あ、いえ、僕は…」
「ジョージ、マシューは俺をここまで連れてきてくれたんだよ。」
リチャードは一歩横に逸れるとマシューの背に手を添えてジョージに紹介した。鋭い眼光に射抜かれ、マシューは慌ててぺこりと頭を下げる。
黒豹なんて滅多に見ない高位の獣人だ。マシューは自分のみすぼらしい格好が恥ずかしくなり、ボロボロのズボンをキュッと握りしめた。
「マシュー、顔を上げて。君のおかげでジョージと合流できた。」
優しく背を撫でられて恐る恐る顔を上げると、リチャードが屈んで下から顔を覗き込んでくる。サングラスのせいで表情は伺えないはずなのに、何故だろうホッとする温かい微笑みを浮かべているのがわかった。
リチャードはポケットから何かを取り出しマシューにそっと握らせ、そして膝を折るとマシューの手を両手で包み込み祈るように瞳を閉じて額に当てた。
「これはお礼だ。ありがとう。」
マシューが手の中の何かを見るよりも早く、歩き出す。ジョージもマシューに礼を一つしてリチャードに続いた。二人の背中はすぐに雑踏に消え、まるで最初からそこにはいなかったかのよう。
マシューが手を広げると、そこには美しい紫水の宝石をあしらった指輪が輝いていた。
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