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その頃
徳川領地の遠くから敵情視察をしていた、軍神-上杉謙信-に仕える忍のかすがが居た。
左右の長い髪を風に靡かせながら、今の徳川軍の様子を見てから、主君の謙信に伝えるべくその場から消えた。
越後国境
「(徳川軍は伊達軍と交戦中…上杉には好都合だな。どちらかが動けなくなったら少しはあのお方も動きやすいだろう)」
謙信が居る城へと戻りながら、かすがは内心で考えていた。
元はと言えばかすがは、上杉謙信暗殺の為に忍らしく赴いたが、謙信の美しさに一目惚れをしてしまいそのまま上杉軍に仕えたという。
叶わぬ恋心とは分かっているが、かすがは謙信の傍に仕えられる事だけでも幸せに違いない。
ふと、何らかの気配に気付いたかすがは立ち止まり、気配がした方角へとクナイを投げた。
「相変わらずの反応だね~かすが」
「…お前か…猿飛佐助」
クナイを投げた方角には、そのクナイを指の間で受け止めた佐助が居た。
佐助はヘラっと笑いながら、クナイを持ち主に投げ返した。
「私に何の用だ?」
「特に用は無いけどさ。敵情視察の帰り?もしかして」
「それ以外に何が有るんだ。あのお方からの命令だったからな」
佐助が苦手なのか、かすがは顔を逸らしつつ腕組をしてから答えた。
「まぁ良いや。そっちはあんまり目立って動いてないみたいだしさ」
「あのお方次第だからな。私は従うまでだ」
律儀なのか、かすがは佐助から顔を逸らしながらさらりと言った。
佐助とは同郷の出だが、今は敵同士だ。主に従順過ぎるのもどうかと思うけどねと佐助は内心で考えていた。
「ま、お前が元気なら良かったよ。後、一つだけ言っとくぜ?伊達軍に居る女の子には敵意を向けるなよ」
「どういう意味だ…?」
「手痛い返り討ちに遇うって訳。それ以上は内緒」
かすがにはさくらの事だけを知らせてから、佐助は闇に消えた。
かすがはちらりとそれを見てから、少しだけ考えた。
「(確かに…先程遠くから見た時、伊達軍の中に女が居たな…)」
佐助から聞いたさくらの事だけは、まだ主に報告しないでおくかと考え付いてから城へと向かった。
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