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「おーぃっ、弛んでっぞ!」
俺らの劇団・蛍火で座長を務める七雲さんの檄が飛ぶ。普段はツリ目で強面の顔面が鬼の形相に変化している。
ヤバっと思った俺らは気を引き締める。休憩の時間を伸ばされてはたまったモノではない。それでも心はある報せに、正直気が気でなかった。
「休憩すっぞ。リニモアもいいけどお前らの本質は舞台にあンだぞ。そこ、忘れンな!」
タバコを吸いに行く者、喉を潤す者…めいめいの時間を過ごす中、俺らは真っ先にスマホ画面を開いた。
俺の名前は角田ヒルノ。劇団蛍火で主に活動している25歳、俳優の雛だ。座長のツテで地方局制作の深夜ドラマに(役名は無いが)出演経験がある程度。今が旬の俳優とは月とスッポンぐらいの経歴しかない。
「どーよ、ヒルノ。自信あんの?」
話し掛けてきたコイツは、同じ劇団に所属しながら活動する俳優、井村トウカ、24歳。俺より歳下だがプライムタイムのドラマにも出演経験がある。俺とは違う端正な顔立ちと、役者に対する真摯な態度は尊敬するモノもある。
「期待はしてる。自信は無いがな。そう言うトウカはどうよ?」
「僕のメアちゃんに自信が無いわけないだろ」
俺とは違ってトウカはリニモアでも勝っている。これだから親バカは困る。
「やりっ。一本合格してるっ!」
対して俺の朝葱アリアは全落ち。本人の実力がそのまま反映されているようで気持ちが萎える。
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