百物語

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百物語

「青木君。ちょっと話せるかな」  教室を出るところで中里が声をかけてきた。いつも帰りのHR(ホームルーム)が終わる瞬間に席を立つ俺をわざわざ捕まえにくるとは、余程の用事だろう。俺は足を止めた。 「いいよ。何?」  中里とは二年から同じクラスになった。全然、話したことはない。部活も出身中学も違うし共通の友達もいないが、多分、それは理由じゃない。厚みのあるもっさりとした前髪が黒ぶちメガネを覆い、いつもマスクをしている見た目がもう、俺がどうやって話せばいいか分からないタイプのヤツに見えるからだ。 「ちょっと話しにくいことなんだけど――」 「じゃ、どっか行く? 俺今日5時からバイトだから、それまでなら時間あるよ」 「いいの? じゃ、行く」 「駅前のモスでいい? 俺、あそこでバイトしてるからギリギリまで話せるよ」  混雑とまでいかなくてもそこそこ人が入る時間帯に一席(ひとせき)使ってしまうのは気が引けるが、長居もしなければ何も注文しないわけじゃない。何より移動するのも面倒なので俺にとって都合のいい提案をした。  学校の最寄り駅まで約10分。道中、なんの話かは聞かなかった。中里は思いのほか話しやすく、見た目の割には普通のヤツだという事が分かった。ろくに話したこともないのに突然改まって「話がある」なんて、少し構えていた俺はモスに着く頃にはすっかり気が楽になっていた。 「青木君、何にする?」 「んー……俺、ジンジャーエール」 「なんか食べる? 一緒にポテト食べようよ。俺、奢るからさ」 「おー、いいね! サンキュー」  前に並んでいた客が店内へと進み、俺たちの番だ。俺はレジに立つバイト仲間の遠藤に “スマン!” のジェスチャーをした。 「エンちゃん、おつかれ」 「おう、アオちゃん。友達?」  遠藤は “いいヨ!” のジェスチャーで、気軽に声をかけてくれた。 「うん。同じクラスの中里。今、混んでる? ちょっとだけ平気かな」 「全然大丈夫。奥、空いてるぜ」  奥、というのはもともとは喫煙席で、ちょっと個室の雰囲気があるスペースだ。たばこのにおいが残っていて人気(にんき)がない。話しにくい話をするには丁度いい。あまり時間もないので俺は座るなり話を切り出した。 「それで? 話って?」
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