百物語

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 蔵の中はじいちゃんが直々(じきじき)に案内してくれた。二階に上がってすぐの広くなっているスペースが小さな図書館みたいになっていて、そこに沢山の百物語が並んでる。なぜ、一目(ひとめ)見て百物語だと分かったかというと、すべての本の背表紙に「百物語」と書いてあるからだ。字体はバラバラ。すべて手書きみたいだ。  まさか……なぁ? 本物? じいちゃんは沢山並んだ本の中からスッと迷いなく一冊取り出し、「これが俺の百物語だ」と、俺に手渡した。 「見ていいんですか」  聞くと、じいちゃんは頷いた。  中里が持っている本と同じ白い本。表紙にも「百物語」と書かれてる。下の方にはじいちゃんの名前だろう「中里勝信」と書かれていた。  表紙を開くと一ページ目から文字がびっしりだ。小説のように右から開いて縦読みではない。左から開いて横書きになっている。まるでノートだ。出だしから内容も難しい。物語というよりはビジネスケースばかりだ。……うん、ビジネスケースばかりだ。 「これって……」 「俺は社長になりたかったからな」 「青木君。じいちゃんはほんとに社長なんだよ」 「マジかよ……」 「父さんは船乗りの話を集めたんだ。今、貿易会社に勤めていて船に乗ってる。ね? すごいだろう? コレ、本物なんだよ」  じいちゃんの百物語をパラパラ見ていると、どうもおかしい。……普通に勉強してるだけじゃないか? 中里のお父さんの本を見せてもらうと、やっぱりそうだ。地図とか、天気図とかそんなものがびっしりだ。物語なんか一つも無い。 「あの、これって……」  じいちゃんは穏やかな笑顔で俺に “シー” のジェスチャーをした。  そして、頷きながら俺に聞く。 「青木君。君なら何の本を書くかね」  俺は中里の言う “百物語” じゃなく、じいちゃんと父さんの本を見たままの印象で答えた。 「俺は……医学の本かなぁ……」  中里がすかさず「青木君、夢がない!」と、口を出した。 「そうか。決まってるなら君にも一冊、白紙の本をやろう。書き方は……分かるだろう?」 「あ……ありがとうございます」  中里のじいちゃんは満足そうに笑い、ポンと軽く俺の頭に本を当てると「沢山勉強しろよ」と、言って中里の持っている物と同じ真っ白の本をくれた。
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