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「颯斗、どうした?」
思わず俺が上げた声に、目の前の男はもれなく反応する。
「……いや、何も。ところで、俺があなたの助けになることって結局何だ、っていうんですか?」
自身の金欠の理由を悟られぬよう、俺は元の話題へとさり気なく戻す。
「それ、聞く?」
意味深に、かつ女性だったら確実に一撃で落ちるような流し目で、翔琉は俺へと尋ねた。
「そ、そりゃ……」
思わずその破壊力に男の俺までもが、ときめきそうになり口籠もってしまう。
「じゃあ、可愛い颯斗クンにだけ特別に教えてあげよう」
ドキリとするようなセクシーボイスで、その先を俺の耳へとこっそり囁く。
“俺が颯斗不足で既に限界だから、颯斗クン本人に助けてもらおうと思って……”
この言葉を不意打ちで囁かれた俺は、思わずドラマのヒロインになった気分となり、一瞬にして真っ赤な薔薇のように赤面したのであった。
……破壊力、ありすぎだろ!
不覚にも翔琉の言葉に心を揺さぶられた俺は、既に溶けて無くなった氷の残り水を一気に煽り、平静を装うとする。
だが、そんな付け焼き刃の行動は簡単に見破られ、更なる攻撃を相手は仕掛けてくる。
「なぁ、金無いなら俺のところで……バイトしないか?」
ニッコリと端正な顔で笑う翔琉に一瞬だけ見蕩れてしまった俺は、うっかり男の大事な発言を聞き逃してしまう。
その様子に、翔琉は“イエス”と都合良く受け取ったのか、その先を更に強引に続けた。
「じゃ、決まりな。明日から1週間、颯斗は俺のマネージャーだ!」
そう言われて、ようやく俺はとんでもない話が目の前で勝手に決まっていたことに気が付く。
「はぁ?!えっ?」
慌てて椅子から立ち上がった俺は、周囲の客からの好奇な視線に耐えられず、再び静かに椅子へと腰を掛けた。
大声を出して反対できない俺の足下を見てか、翔琉はニヤリと笑みを浮かべて有無を言わさずこう言った。
「颯斗不足の俺と颯斗の金欠の財布を助けるんだから、この話……一石二鳥だよな?引き受けないとか、そんな選択肢無いからな」
低くセクシーな声色で話すと、翔琉は席から立ち上がり「会計はもう済んでいるから」と俺に告げ、出口へとスタスタ歩いて行ったのだった。
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