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DAY4
撮影が始まってから既に4日目。
何とか周りのスタッフに助けられ、連日朝早くから夜遅くまで右往左往しながらマネージャー業務を代行していた。
本来は、俺がマネージメントしなければならいはずの翔琉に、最も助けられている。
マネージャーなんていらないのでは?そんな疑問すら浮かぶ程、全てが凄すぎる俳優“龍ヶ崎翔琉”をこの数日間で垣間見たのだった。
今朝も、いつものように俺は翔琉の車で現場入りしていた。
初日以来、髪型をセットしても必ず翔琉によって七三分けにされてしまう俺は、流石に4日目の朝には学習し、不本意ではあるが自ら七三分けにするようになった。
「いよいよ、七三分けが気に入ったか?」
意地悪そうな翔琉の言葉に、俺は思わずムッとしてしまう。
「は?だいたい、毎朝せっかく整えた髪を誰かさんから必ず七三にされたら、嫌でもこうしなきゃならない気になるでしょう?」
眉間に眉を寄せたまま、車の助手席から一足先に降りる。
すると、同じく現場入りする為その場を偶然通りかかった飛海と目が合う。
「天王寺さん、おはようございます。今日も宜しくお願い致します!」
深々と頭を下げながら俺から挨拶をすると、飛海は自身のマネージャーをその場に残し、俺の方へとスタスタ歩いて来た。
「あれ、どうしてマネージャーさんが助手席から降りてくるの?」
まだ運転席から降りてこない翔琉には気付かれないよう、飛海は小声で俺へと詰め寄る。
「あ、えっと……それは俺が免許を持ってなくて……」
綺麗な顔の男に詰め寄られた俺は、翔琉とはまた違う迫力に思わず気後れしてしまう。
「でもさ、いつものマネージャーさんはちゃんと車で送り迎えしてたよ?……だいたい、キミさぁ本当に翔琉さんのマネージャーなの?見てれば、ほとんど翔琉さんに助けてもらってばっかりで、どっちがマネージャーだか分からないんだけど。
何で、超人気俳優のマネージャーになっちゃった訳?どう言って取り入ったか知らないけど、新人のクセに翔琉さんのマネージャーなんて図々しいにも程があるとか思わない訳?」
更に、チクリと痛いところばかりを突く飛海に俺は何も答えられなくなってしまう。
「えっと……」
マネージャーは一時的な代行であること、本当は貧乏なただの大学生であること、そして翔琉に取り入ったつもりは1度も無いこと。
だが、その全てを飛海に伝えたところでどれも俺個人の言い訳にしかすぎない。
それどころか、“俳優龍ヶ崎翔琉”の価値を下げてしまうだけだと口を噤んでしまう。
「――もしかして、運転できないから迎えに来てもらってるとか、サイテーなこと言わないよね?」
鬼気迫る飛海の低い声と表情が容赦なく事実を告げ、俺は胸がツキリと痛む。
そこへ、ようやく運転席から降りてきた翔琉が俺たちの前へと姿を現す。
「翔琉さーん!おはようございます!今日も素敵ですね」
先程とは違う飛海の媚びる声が聞こえ、俺も視線を翔琉へと移す。
今日の翔琉も、頭の先から足先まで一部の隙もなく超人気俳優に相応しい出で立ちだった。
それに比べて俺は……
先程、飛海から言われた言葉が頭から離れず、また自らセットしたとは言え全く似合わない七三ヘアーの惨めな姿の自分に、今すぐ泣きたい気分へと陥っていたのだった。
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