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5月の空は、キミの心
「本当にいた……」
深夜2時、1人で住むには広すぎるタワーマンション最上階に住む部屋の主は、帰宅するなり驚きの声を上げていた。
「それは、人気俳優の睡眠時間を確保するのもマネージャーの仕事ですから。風呂、湧いてますよ。あと簡単なものですが、夜食作っておいたので……おやすみなさい」
淡々と述べた俺は、リビングにあるソファへと1人横になる。
着ていたジャケットを脱いだ翔琉は、普段使われていない椅子へと掛け、ソファで横になっている俺の背後へと近付いて来た。
「……俺のエゴで、巻き込んで悪かったな」
殊勝に翔琉は話す。
「別に、巻き込んでなんて……」
翔琉に背を向けたままの姿で答える。
すると、俺が横になっている腰辺りに無理矢理翔琉は腰かけた。
「――今朝、天王寺に話し掛けられた後、様子がおかしかったな。何、言われたんだ?」
「別に、何も……」
分かってたんだ。
そう心の中で俺は、思った。
「言ってみろよ」
そう言うなり、翔琉は俺の顔を覗き込んだ。
あまりの至近距離に、俺は思わず心臓が激しく高鳴る。
「だから、何も言われて無いって!」
少しだけ声を荒らげた瞬間、俺の視界と唇は整った顔の男により遮られ、そして塞がれた。
いつもより長く執拗なキスに、俺は思わず目を見開く。
「“金”が稼げるなんて口実で、ただ颯斗の弱みに付け込んで俺がお前を離したくなかっただけなんだ。本当に悪かった」
珍しく自信なさそうに翔琉は、謝罪する。
こんな情けない翔琉の顔が見られるのも俺だけだ、という事実に飛海から言われたことなんて全て吹き飛んでしまう。
「――翔琉、俺はあなたの仕事が見られて良かったです。お陰でどれだけ自分が、自分のことしか考えていないかが分かって今後の参考になりました。
……悔しいけれど、ホンモノの俳優なんですね。かっこよかった、かも……」
背を向けたまま恥ずかしそうに答える俺に、翔琉は背後から力強く抱き締める。
「あー!やっぱり颯斗は可愛いなぁ。そういう素直なところ、本当に俺は大好きなんだ。まるで、真っ青な5月の空のようだな……」
俺の首筋に顔を埋めながら翔琉は話す。
翔琉の温もり、そして吐息を直に感じた俺は別の意味で恥ずかしさを感じ、何とか逃れようと身動ぐ。
だが、がっしりと背後から抱き締められているせいで中々逃れられない。
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