第11話・桜舞う空の下で

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「んっ、……!」  初めて理人と繋がったその一瞬。余裕がなくて、痛みに感動する暇すらなかった。 「痛てえだろ、ごめんな……」 「……あ、謝らないで……。俺は、理人と……セックス、できて……嬉し、……から」  理人が笑い損ねた顔をして、俺の頭を何度も、優しく撫でてくれた。 「もう少し、慣れるまでこうしてるか」 「す、すいません……助かります」  繋がったまま抱き合い、お互いに深い深呼吸を一つする。理人のそれが俺の中に収まっていると思うと、何だか妙な気持ちになった。 「は、ぁ……」 「ちゃんと広げてやったのにキツいな。無理もねえけど」  余裕がないのは俺だけだろうか。理人は苦笑して何度も俺の頬にキスをし、少しでも痛みから気を逸らそうとしてくれているのに。 「理人のが、デカすぎるんです……」 「それは煽りにしかならねえなあ」  くすくすと笑われてついムッとしてしまったが、俺には分かっている。  今の俺の台詞で、途端に理人の余裕がなくなったこと。顔では笑っていても、その内面は滑稽なほど波立っていた。 「理人」 「……ん?」 だから、俺は理人に囁く。 「う、動いて欲しい、です……。理人が好きなように、俺のこと抱いて下さい……」 「っ……お前、……」  内面よりも分かりやすく、俺の中で理人のそれが脈打った。一瞬驚いてしまったが、すぐに理人にしがみつき受け入れの態勢を取る。 「んっ、あ……! あっ、あぁっ……」 「煌夜。……煌夜っ、……!」 「り、ひと……!」  俺のそこに理人の腰が何度も打ち付けられて、その度に理人の汗が飛んでくる。俺は自分の方へ引き寄せるように強く理人の体を抱きしめ、喉を逸らせて声を迸らせた。  幸せだった。これまでの人生で一番幸せだった。あの日俺を拾い上げ、綺麗に磨いて人間らしさを与えてくれた理人。その彼と、こうして一つになれるなんて……これ以上何を望むことがあるだろうか。 「り、りひとっ、……! 気持ち、い……ですっ……! あっ、あ……」 「っ……馴染んできたか?」 「わ、分からなっ……あぁっ、けど、気持ちいっ……」  理人が口元だけで笑い、俺の耳に囁いてくれた。 「俺も気持ちいい。愛してるぜ煌夜」 「んっ、ぅ、あっ……! あっ、だ、駄目……!」  気持ちいいと感じるのはきっと、体以上に心が繋がれているからだ。理人と俺と、同じ気持ちで抱き合い、互いを求め合っているからだ。 「煌夜。いい匂いがする」 「え、……あっ」 「柔らかくて、爽やかで甘い匂いだ。花のような──」  理人の言葉に、涙が止まらない。 「すげえ安心する。煌夜の匂いだ」  涙の上からキスをされ、俺はより一層強く理人の体を抱きしめた。 「も、う……駄目です、理人。俺っ、……俺……!」 「ああ、俺もヤバいかも……」 「大好きです、理人……!」 「俺も──」  理人の眉間に皺が寄る。熱い筋肉が瞬間的に強張り、更に熱くなる。 「ああぁっ……!」  きつく抱き合い、俺達は同時にそこへ到達した。 「……は、ぁ……」  息を弾ませ、無言で見つめ合う。理人の鋭い眼と俺の蕩けた視線。二人とも汗だくで、頬は真っ赤だ。それが少しずつ笑顔に変わり──言葉を交わすことなく、俺達はどちらともなくキスをした。
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