友達

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「やばい……」  既にお腹が空いたと言っているのにあの一時間半も待たせるのも、そもそも七時なんて遅い時間に食事をとらせるのも可哀想だ。本当はまだ小さいし、外食は極力避けようと思っていたけれどもう仕方が無い。アレルギーが特に無いことは姉から聞いているし、海奈と姉夫婦には申し訳ないけれど諦めてどこか行くか……と考え始めたところで 「矢田、お前、家に何がある」  と、亜希からの問いが飛んでくる。 「え?食材の話?前あっきーが来た時と何も変わってないよ?卵と、野菜がちょっとずつと、うーん……何かあったかなぁ……」 「じゃあ何とかなんだろ、多分。ケチャップは?」 「あるけど……、ほんとに家何も無いよ?」  いいから、キッチン貸してみろ。言いながら家の方向に歩いていく亜希を、海奈を抱っこして慌ててついて行く。言われた通りにキッチンに亜希を通せば、ものの三十分程でオムライスが、それもご丁寧にスープ付きで出てきた。しかも海奈の分はお子様セットでよく見る、綺麗な山型に形の整ったものだ。 ちなみに海奈の分以外の二つに乗った卵は半熟で、こっちも店で出せそうだ。 「わっ、すごい、早……!しかも美味しそう……」  海奈の目もキラキラと輝いて、はやく食べたそうにうずうずし始める。家で食べるご飯がこんなに綺麗に盛られて出てくることなんてなかなかないだろう。 「ね、ね、たべていい?」 「うん、いいよ。一緒にいただきますしようね」  海奈と一緒に手を合わせて、一口分をスプーンで掬って口に運ぶ。自分ではこんなに上手くは焼けないし、早くもできない。献立を決めて買い物に行かないと料理もできない。それなのに、三つとも叶えてしまうなんてやっぱり亜希はすごい。柔らかくてふわふわとろとろの卵や、すっきり飲みやすいスープからは三十分で出来た料理だとは思えないほど繊細な味がした。 「あっきーありがとう、助かった……」 「別に……。俺こそ勝手に首突っ込んで悪かった」  俯き加減の亜希の顔は、こちらからはうまく見えなかった。 「首突っ込んだだなんて、なんでそんなこと……。ほんとに、あっきーが居てくれてよかったと思ってるよ」 「おう。なら、いい」  一瞬、亜希の元気が無いのが気になった。けれど、海奈が食べるのを手伝ったり、食べ終えた後で疲れて寝てしまった海奈を布団に移動させたりしているうちに忘れてしまっていた。  海奈の面倒を見ている間に亜希がテーブルや食器を片付けてくれて、海奈が寝付いた頃には綺麗になっているのを見て、申し訳ない気持ちになる。 「あっきーほんとにありがとう、何から何までごめんね」 「俺がやりたくて勝手にやってんだよ、気にすんな。……いい兄ちゃんだな」 「え?」 「お前、普段料理しないくせにやろうとしたんだろ、その子のために。俺が仕事奪って悪かったけど……。あと、自分はインドア派のくせに子供外に出してやろうとか、色々考えてんの、偉いなって」  驚いた。そんなところまで見透かされていたなんて思わなくて、しかもそれを褒められるなんて、思ってもみなかったから。 「ふふ、ありがとう。でも失敗ばっかりだったよ。手伝ってくれて、よかった。ありがとう」 「おう。じゃあ、俺そろそろ帰るから。役に立てたみたいでよかった」 「ご迷惑お掛けしました。でも、どうせこんなにしてくれるなら最初からあっきーに手伝ってって言えば良かった」  荷物をまとめていた亜希が一瞬目を丸くしてフリーズした後、ははっ、っと笑った。あ、可愛い。何故かそんな感想が湧いてきて、慌てて頭の中からその思考を消した。 「そうだな、じゃあ次から呼べよ。俺はガキ、好きだしな」 「あー、そんなこと言ったらほんとに呼ぶからねー?」  そう言えば、おう、いいぜ?なんて笑う亜希と玄関先で別れてから五分もしないうちに姉が海奈を引き取りに来る。 「ごめんねー遅くなっちゃって!もうちょい早く終われる予定だったんだけど、思ったよりかかっちゃって……」 「うん、いいよ、大丈夫。友達が手伝ってくれて、ご飯とかもその子がやってくれたんだ」 「へぇ、いい子ねー。そういう子とは長く付き合うのよ、喧嘩しないようにね」  その言葉がなんとなく胸に刺さった。喧嘩した訳ではない。だけど、なんとなく、ずっとこのままではいられないような気がしたから。そんな気がしたのも、この間のもやもやのせいだろうか。あはは、と曖昧な返事を返して、帰っていく姉と海奈を見送った。 「疲れたー……」  失敗続きでも疲れるだけ疲れるなんて、人の体は面倒なものだ。椅子に浅く腰掛けて背もたれに思いっきり体重をかける。そのまま目を瞑ればいつの間にか夢の中だった。
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