彼女

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「付き合ってくれてありがとう、楽しかった」 「どういたしまして。俺あんまり映画とか行かないんだけど、すごい面白かった」 「そうなの?でも、楽しんでくれたみたいでよかった」  映画に行かないのは嘘かもしれない。アニメ映画はよく見に行くけれど、皆が話すような俳優の出る映画はあまり見ない、というのが正しいのだろうか。  駅までの帰り道、加奈子の手が何かを掴もうとして宙を彷徨った後、諦めたように下ろされたのが見えた。 「うん、また誘ってね」 「また付き合ってくれるんだ。じゃあ、お願いしようかな」 「勿論。……じゃあ、またね」 「うん、また」  駅で別れの挨拶をして、加奈子が自分の帰る方向を振り返る。その目線の先に見知った赤髪が見えた気がして、思わず目線を逸らした。気のせいかもしれない。そんな淡い期待を寄せながらもう一度そっと振り返れば、楽しそうに話しながら去っていく亜希と加奈子が見えた。  家に帰るだけ。ここから電車で数駅移動するだけの亜希がすごく遠くに行ってしまう気がした。不意に流の言葉を思い出す。 『男同士だし、とか思ってもさ、好きなもんは好きなんだよ。仕方ねーじゃん』  そう言った流は真剣な顔をしながらもどこか誇らしげで、幸せそうで。でも、流の恋は叶っていて、可愛い恋人がいる。自分の今の状況とは違う。 「好き」  声に出してみる。好き、好き。あぁそうか。好きなんだ、亜希のこと。それに気付いたのと同時に涙がコンクリートに落ちて、広がって乾いた。 「っ……、うぅ……」  自覚と同時に失恋確定。そんなことならずっと、気付かなくてよかったのに。  苦しい。涙が溢れて止まらない。  すれ違う人の目線が刺さる。嗚咽を漏らしながら泣くのなんて、何年ぶりだろう。涙脆い、よく言われる。だけど、それでも声を上げてまで泣くことなんて滅多にないから。 帰りの電車に乗り込んで、スマホを開く。 『ながるん、俺、失恋したかも』  流宛にメッセージを送信する。既読も付かないまま自分が降りる駅に付いて、電車に乗っていた約一時間、何もしないまま時間だけが過ぎた。頭の中にあるのは亜希のことだけだった。
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