サクラサク

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 学祭一日目が終わり、帰りの電車に乗ろうと改札を抜けたところでポケットに突っ込んだスマホがピコンッと音を立てて震え、メッセージの着信を知らせる。 『振られちゃった。今まで相談に乗ってくれて、ありがとう』  思わず目を見張る。今まで加奈子から来た俊介との進捗は上手くいっているように見えて、失敗なんてするはずない。そう思っていたから。  加奈子から相談に乗ってほしい、と言われたのは俊介と仲良くなってすぐのことだった。話があるから部活まで迎えにいく、と言われて話をすれば内容はそれ、正直なところを言えば、引き受けたくなかった。  理由は簡単、自分も俊介のことが好きだったからだ。  けれど、加奈子の相談を受けて、決めた。俊介のことは諦めようと。同性同士でも、上手く付き合って、傍から見てもバカップルだ、と思うようなカップルが丁度友達にいる。けれどそれが特殊で例外的、そう簡単に同性で恋人になれる訳もないことくらい、痛いほど分かっていた。男同士で、端から報われるはずも無い気持ちを引きずるくらいならいっそ加奈子の恋を応援しよう。そう、決めたはずだった。  それでも加奈子から俊介の話を聞く度に耳を塞ぎたくなったし、やっぱり嫌だ、俊介が彼女と並んで歩く姿なんて、見たくない。何度も思った。けれど今更嫌だなんて、そもそも俊介が好きだなんて人に言えなくて、自分の恋を犠牲にした。  昨日の夜、俊介にキスされた時も、本当は少しだけ嬉しかった。からかわれているだけだったにしても、気持ちが付いていなくても、行為自体は同じだから。  そう、からかわれていると思っていたのだ。だって、明らかに付き合う寸前の加奈子と俊介の間に自分が入り込む隙なんて無くて。それなのにあんなことをしてくるなんて、からかい以外の何が考えられただろう。  けれど、俊介は加奈子を振った。じゃあ、もしかして……なんて、そんなあるはずもない期待が湧くのと同時に昨日のことを思い出す。  俊介を突き放したのは、自分だ。傷付けてまで俊介を拒んだのは、こちらの方だ。それなのに、今さら好きだなんて言える訳ない。  それでも、このままで終わるなんて嫌だ。もう話せなくなるなんて、ごめんだった。
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