プロローグ

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 イートインの屋外に置いてあるテーブルで溶けるように突っ伏した自分を、行き交う人が遠巻きに見る。それもそうだろう、何を買うわけでもなくこんなところに居座り、他の学生の邪魔をした挙句こんなだらしない姿勢をしているのだから。  許して欲しいとは言わない。こちらの境遇なんて、周りの人間には関係のないことだ。財布を落として金欠の上に、花粉症だと思って放っておいたら実は風邪で、盛大に風邪をこじらせたところにバイト先の都合で深夜バイトしかシフトが空いていなくて、しかも趣味で描いている絵に反響があってたまに貰う依頼の納期が近い。そのせいで疲れていても、寝る暇がなかったにしても、許して欲しいなんてそんなことは言わない。だけどやっぱりもう少しだけこのままで居させて欲しい、眠いものは眠いのだ。  たまたま不運が重なっただけ、その中で唯一運が良かったと思える点は財布がちゃんと返ってきた事だろうか。現金は本当に一円も残っていなかったけれど、カード類が残っていただけましだと思う。  眠いし、体はだるいし、けれど家に帰るのも面倒くさくてこんなところで惰眠を貪ろうとした罰だろうか。人の目線が気になるのが原因か、眠れないどころかどんどん目が冴えてきた。どうせ講義が始まればすぐ眠くなるくせに、全くもって間が悪い。  昼食を取るための金銭も食欲もなくて、寝ることもできないままそこでかなり無駄な時間を過ごした後、次の講義までそんなに時間がないことに気がついて席を立った、瞬間目眩と吐き気に襲われてその場にしゃがみ込む。 「うっ、気持ち悪……」  また立ち上がったらきっと同じことになる。そう思うとどうしても怖くて立ち上がる事もできなければ移動もできない。どうするのが最善か分からず、焦りで余計に吐き気が増す。 「大丈夫…じゃ、ねぇよな。医務室、一緒に行きますか?」 「えっ…」  うわ、神だ…。そう思ったのは声には出さずに知らない誰かの呼びかけに対して無言で肯けば、屈んでくれて肩を貸してくれる。友達に呼ばれたようで、行ってしまうのではないか、と一瞬焦ったものの、断ってこちらの移動を手伝ってくれて、なんていい人なんだ…と感動した。  移動中もこちらの吐き気を察してくれたのかゆっくり歩いてくれたし、医務室に入ってからも大方状況を説明してくれたようで、ほとんど看護師からも何も聞かれないまま貸してもらえることになったベッドに横になって、あの人誰だろう、かっこいいな……と、半分夢の中で思った。  まだ少し肌寒い、春休み前の三月の話。
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