友達

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「あっきー、左頼んだ」 「了解、楽勝」  ボロボロの低価格アパート、大学から徒歩十分。カーテンに外からの光を遮られた薄暗い部屋で、明明とテレビ画面に映し出されるゾンビを二人で倒すこと早一時間。ちなみにまだ外はそんなに暗くない。部屋が暗いのは、言うなれば雰囲気作りだ。 「おい、矢田、後ろ!」 「え?うわっ、待って待って死ぬ死ぬ死ぬ、なんかいっぱいいる、あっきー助けて!」  さっき難易度の高そうなところを抜けたばかりで、当分はヌルゲーだと思って気を抜いていたら敵と出くわしたポンコツな俺を、亜希が華麗にゾンビを撃ち抜いて助けてくれる。 「あー、あっきーありがとう最高、大好きだーっ!」  コントローラを片手に持ったまま、隣に座っている亜希に飛びつく。そのままぎゅうぎゅう抱きしめれば、窮屈が故か暑苦しいのが理由か、眉間に皺を寄せつつも不満も言わずにそのままにしてくれる。  最初に会った時の対応とか、ゾンビから助けてくれるところとか、こうやって甘えさせてくれるところとか、最高にかっこいい。こんなにずっと一緒にいたい、と思った友達は亜希が初めてかもしれない。  最初は、ほんの数ヶ月前までは本当に知らない人だった。それなのに、体調が悪くなったところへ迷いもせずに声をかけてくれた。  後になって千草や流を通じて仲良くなった後も、亜希のイケメンっぷりは変わらず健在だ。例えば、一緒に買い物に行けば買い物袋は持ってくれる。 「あっきー、お腹空いたぁ」 「まだちょっと早いけど、飯にするか?」「賛成!」  ご飯だって作ってくれる。なんだ、亜希は神か。 「今日は何作るの?」 「お前今日一緒にスーパー行ったろ。何買った?」 「んー…と、鶏肉と、人参とじゃがいもと玉ねぎ…、あぁ、今日はカレーかぁ」 「正解」  じゃあ次はもっと作る人の味が分かりやすいのがいいなぁ、カレーって売ってるルー入れるだけじゃん。なんてぼやきながら亜希が計った米を研ぐ。別に料理ができない訳ではない。実家にいた時は自分で食事を作ることも多かった。  ただ、それは仕事で自分より遅くに帰ってくる姉もそれを食べていたからで、今では一人で住んで一人でとる食事に手間をかける意味が分からず、亜希が来ない日はほとんどかインスタントか外で済ませるか食べないかだ。 「あっきー、お米セットできたー」 「じゃあすぐできるから休んでいいぞ」  言われて大人しく引っ込む。初めの頃こそ俺も手伝うよ、と亜希の隣に立ったものだが、狭いキッチンに二人立つのは窮屈だったし、邪魔になるだけだと気付いてからは米を炊く係に徹している。  とは言っても、実際に米を炊くのは炊飯器なのだけれど。  亜希が夕食を用意してくれている間に、もうほとんど亜希用と化した来客用の布団を自分の布団と並べて敷く。寝室のカーテンは閉めていなかったせいで、外の景色がよく見える。  もう、春だ。出会った頃はまだ肌寒かった。けれど、これから梅雨が来て、雨が上がればもう夏だ。暖かく部屋を包んでいた日が落ちて、急に暗くなり始めた空を見た。敷き終えた布団の上でぼーっと外を眺めていればいつの間にか眠っていて、起こしに来た亜希の声で目が覚める。 「飯、出来たぞ。大丈夫か?」 「ありがと〜、全然大丈夫。暖かいなーと思ってたら寝てた、ごめんね」 「休んでいいって言ったのは俺だし、別にいい。特にお前とか、毎日大変そうだしな。休める時に休んどけ。本当は夜も寝ろよ、って言うべきかも知れねぇけどな…」 「でも、ゲームは付き合ってくれるよね?」 「勿論。でもその前に、冷めねぇうちにさっさと飯食っちまえ」  食前の挨拶をしてからスプーンを手に取り、カレーを口に運ぶ。市販のカレールーで作った筈なのに、自分で作った時と微妙に味が違うのが不思議だ。  先に食べ終わった亜希がキッチンに向かうのを見て、慌てて残りを口の中にかき込んで席を立つ。任せっきりなのが申し訳なくて、後片付けくらいさせて欲しかったからだ。 「いいよ、食器洗うのくらい俺がやる」 「じゃ、任せた」  皿洗いを終えればやりかけのゲームを再開させて、終わり次第風呂に入って二組横に並んだ布団に潜り込んで死んだように眠る。いつもの日常、これが昨日の夜の話。
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