友達

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「おにーちゃ、こーえん!」 「公園?お買い物行かないの?」 「こーえん!」  約束の土曜日、朝から海奈が家に来た。午前中はずっと持ってきたおもちゃで遊んだり、一緒にお絵描きをしたりで大人しくしていてくれたけれど、さすがに家に閉じ込めっぱなしなのも可哀想かと思い、夕食を作る分の材料を買いに行くついでに外に出すことにした……のだが、スーパーに行く途中にある公園に目が止まったようだ。さして急ぐ用事もなかったし、初めからある程度好きなようにさせてやるつもりだったので、止めることもなく行かせてやる。 「いいよ、行っておいで。あそこの椅子で待ってるから何かあったら戻って来てね。それと、行くよーって言ったらお買い物行こうね?」 「うん!」  元気よく返事をして砂場へ駆けていくのを見届けた後、端に設置してあるベンチに座る。昼寝をしたばかりで元気いっぱいの海奈はすぐに友達を作って、一緒に山を作り始めたらしい。そんな海奈とは正反対に、海奈が来る前日は早く寝なければ……と、思いつつ結局二時間睡眠の身体が春の陽気の下で作った友達は人間ではなく眠気で、午後三時の強すぎない陽射しが瞼を重くする。ウトウトしては焦り、海奈の元気な姿を確認してはまたウトウトを何度も繰り返して、太陽が昼間の元気を失くし始めた頃、聞き慣れた声で目が覚める。 「おい、矢田、起きろ。小さい子供一人で遊ばせたら危ないだろ」 「んん、あっきー……?あっ、海奈ちゃん、ごめんね!?」  うっすら目を開ければ亜希が居て、横には亜希と手を繋いだ海奈の姿が見えて、慌てて目を覚ます。 「良かったな、お兄ちゃん起きて。帰ったら怒っとけ」 「ごめんなさい……、でも、なんであっきーがこんなとこに……?」  亜希の家は大学から徒歩十分の自分の住まいと違って、もっと遠くにあるはずだ。 「お前が用事あるっつーから俺も暇だし大学行ってたんだよ。そしたら帰りに一人で遊んでる子供見つけたから一人で来たのか?って声掛けたら……」 「おにーちゃんと来た!」 「って、お前の方指さして言ったから。妹か?」  話しながらも目線は海奈の方を向いていて、海奈の遊びに付き合ってくれる。海奈も周りに同世代の子供がいなくなってしまっていたことも手伝ってか、短時間の間に随分懐いたようであっちへ行こう、こっちへ行こうと公園中亜希を連れ回そうとするのを、亜希の方も慣れた様子で相手を務めてくれる。 「妹……じゃ、ないんだけどね。姪っ子だよ。姉ちゃんも旦那さんも今日忙しいみたいで」 「へぇ。実家に預ける、とかじゃないんだな」 「あー、うちの母親、俺にも姉ちゃんにも興味ないし、家帰ってこないから。たまに姉ちゃんが実家の掃除行ってるみたいだけど、それでたまたま会った時だって挨拶すらしてくれない。って、姉ちゃんが怒ってた」  亜希の驚いた顔を見て、しまった、と思った。こんな話、人にする話じゃない。亜希に隠し事なんて、した事も、しようと思った事もほとんどなくてつい、口が滑った。 「……変な事聞いて、悪かったな」 「いや……、こっちこそごめん、変な話して……」  久しぶりに普通に喋れたと思ったのに、また気まずい空気が漂う。折角会えたのに。 海奈が亜希の服の裾を掴んだまま、意味が分からないと言わんばかりに二人の顔を交互に見る。そして一言、腹部を押さえて俯きがちに言った。 「お腹空いたぁ」 「あっ、ごめんね、そうだよね、おやつも食べてないもんね……。でも家には何にもないからとりあえず買い物に行きたいかなぁ……」  買い物に行って、おやつもそのときに買ってあげればいいか、と思っていたのに眠っていたせいですっかりタイミングを逃してしまった。そして問題はもうひとつある。そう、時間の問題だ。今が五時半。今から買い物に行って帰って来るのが六時、それから夕食を用意して食べるのが七時前、というのが、事が全て上手く進んだ場合の最短スケジュールだ。
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