百人目の彼女

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百人目の彼女

「はぁ~、きもちいい!!」  夕方の鎌倉。海が見えるほうへ向かって、彼女と自転車に二人乗り。 「最高の気分だ!」  僕らは背後から一気に吹き寄せる冷えた陸風に身体を任せて、切通しを駆け下っていく。耳を撫でてゆく風切り音。腰に回ったあたたかな二本の腕。後ろをちらりと見やると、彼女のスカートがパタパタと風にはためいている。向こうのほうには、少し早めの紅い月が昇っていた。 「ちょっとはじめ、あんまり飛ばさないでよ??」  耳の後ろから、百合恵が笑いながら言う。 「ああ、わかってるよ」  僕もまた笑いながら、ブレーキをちょっとだけ掛けた。  僕は、大学三年生のはじめ。  後ろにいるのは、彼女の百合恵だ。  百合恵と僕は、今日で付き合って一年になる。    記念にって思って、鎌倉デートに誘った。シェアサイクルを借りて一日中あっちこっち、海を横目に行ったり来たりした。大仏にも八幡宮にも行って、小町通りでお昼ご飯。何を食べるか、を巡ってちょっと喧嘩したりもしたけど、仲直りした後でなんだか満たされるような気分になった。とっても幸せだ。  それに、僕にとってこんなに長く関係が続いた彼女は初めてだから。こうして交際一周年記念を迎えられたのが、嬉しくてたまらない。  何を隠そう、百合恵は僕の百人目の彼女なのだ。  決して勘違いしないでほしい、遊んでいたわけではないんだ。  僕が今まで付き合った九十九人は、いつも付き合って間もなく、忽然と僕の前から消えてしまったのだ。告白をするのは僕からということも、彼女からということもあったけれど、付き合ってから二、三か月、長くても半年たつとその彼女は必ずいなくなってしまった。  一人目の彼女は確か、飛行機事故だった。彼女が乗った飛行機が海に墜ち、飛行機ごと行方不明。あまりのショックで僕は一年余り寝込んでしまったのだが、その傷が癒えたころに出会った二人目の彼女は、通学のために電車に乗り込んだのを最後に突然行方不明に。四十七人目の彼女は乗っていたバスが崖から海へ転落して、彼女はそのまま行方不明。九十九人目に至っては、自宅の風呂で姿を消したという。  何でこんなことになっているのか僕にはわからない。  ひょっとしたら、すべて妄想なんじゃないか?  それが一番合点がいくじゃないか、そもそも大学三年生のぼくに九十九人もの彼女が居たはずがない、すべて僕の妄想なんだ。と思ってみたり。  でも、  付き合って仲がかなり親密になった頃に、決まって彼女はいなくなり、そして僕がなんとか立ち直る頃に、決まって新たに心惹かれる人が現れる。  その人は少しずつ僕の心にぽっかり空いた穴を埋めていってくれるのに、その人もすぐいなくなる。  そんな数多の記憶は、鮮明に残っているのだ。  そんなループを繰り返して百回目、とうとう百合恵に出会った。たとえループは妄想だとしても、百合恵との出会いは真実。  大学のキャンパス内の広場で。突然声をかけられた。  百合恵は昼ご飯を一人で食べている僕を見かけて、話し相手に、と思って声をかけてみたのだという。  僕はその深い深い瞳にたちまち吸い込まれた。    それ以来よく話すようになって。  いつも楽しくて、時にどきどきして。  そしてとうとう一年前、僕は百合恵に告白された。結局、両想いだった。
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