百人目の彼女

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 はじめのうちはまたすぐに百合恵も消えてしまうんじゃないかと不安で仕方なかったけれど、時間がたつごとにその不安は薄れ、思いもよらず、僕は一年も彼女の隣にいることができたのだ。  とうとう僕は長い時間を共有できる、運命の人に出会えたのかもしれない。   百合恵のことは本当に大切にしよう、と今日、また改めて心に誓った。  僕らの自転車は海沿いを江ノ島のほうに向かって走る。アクアリウムでナイトショーを見る計画だ。僕の腰に優しく回された二本の腕が温かい。背中に百合恵の吐息がさわ、さわ、とそよぐ。 「はあー、イルカ楽しみ」  百合恵は幸せなため息をつくように言った。  僕は大きく息を吸い込んで、 「僕も」 と言った。 「ばか、何かもうちょっと話してよ」  百合恵が背中を叩いてくる。そんなこと言われても自転車って、漕いでると結構喋るの辛いんだよ…と笑いながら返した。  夕陽が遠く、小さく見える富士山の向こう側へと沈んでいった。  さあ、ナイトショーが幕を開ける。  夜を思わせるしっとりした曲が始まり、プールが明るく照らし出される。胸が高鳴る。高揚感につられて、そっと左手を百合恵の右手に絡める。百合恵も絡み返してきた。ぎゅっ。  そして、ファンファーレとともにイルカたちが泳ぎ回る。思わず息をのんで、見入ってしまった。イルカはトレーナーを鼻に乗せて飛び上がったり、三匹でシンクロしてジャンプしたりと、激しく、かつ美しく魅せてくる。水しぶきを数回浴びたけど、そのたびにきらっきらに光が舞って、僕らを包んだ。心が躍らないわけがない。本当に楽しかった。最高だ。エンディングになるころには百合恵は僕の肩にその身を預けて、すっかりイルカのダンスに心を奪われてしまっていた。  名残惜しい音楽が流れて、僕らはスタジアムの外に出た。 「やばい、ほんとにすごかった」  百合恵は頬を紅潮させてそう言う。僕は百合恵がそんなに喜んでいる姿をみて、心底満足していた。 「もう最高かな、あの水しぶきの気持ちいいことと言ったら…あ、百合恵もびしょびしょじゃん」 「はじめも頭ペタンコになってる!」  二人で互いの濡れた頭をごしごしなで合って、無茶苦茶に笑いあった。  これほど、互いの心が通じ合ってるって感じられたのは初めてだった。 「帰る前に、クラゲでも」 「…うん」
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