百人目の彼女

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 僕は肩で息をしながら、そちらを見上げてみる。 「あ、あれは…!?」  月ほどの大きさの紅い丸が、夜空にはっきりと見える。それは、じわ、じわと、大きくなりつつあるように思われた。  その瞬間。 「あれ…え…っ」  激しいデジャヴに襲われて、背筋が凍りついた。  この景色を前にも見た事があるような気がしたのだ。それも、何度も。  何度も? 「見たらわかるでしょ、隕石だよ、それも破壊的な大きさのね」  百合恵はまるで全て知っているかのようにさらっと言い放つ。  僕は愕然とした。まさか、今日、ここで死ぬのか。せっかく百合恵と愛の約束を交わせたのに。嘘だろ。  その瞬間頭をぶち割るような激しい頭痛に襲われる。  あれ、この感情も前、どこかで経験したような。  歪んでひしゃげて押しつぶされていた記憶が、まるで激しく僕の頭を叩いてるみたいだ。  耐えられず水族館前の広場を見回してみると、大勢の人がこの事態に気づいているようだった。ただし、楽観的に。大きめの流れ星くらいにしか思ってなさそうだ。スマホを向けたり、指さしてみたりしている。 「どういうことなの」    僕は百合恵に言った。 「前にもこの景色見た気がするんだけど…気のせいかな」  答えが来るなんて思っちゃいなかった。 「はじめ、そりゃそうだよ。気のせいじゃない」  え、今、何て?  「説明めんどくさいからあとで!とにかく逃げなきゃ」 「え、ちょっと、逃げるってどこへ!」 「上!」  百合恵は上を指さした。 「は?」 と言いながらその指につられて上を見ると、そこには巨大な飛行物体があった。 「ゆ、UFO?」 「UFOじゃないけどそんな感じの何かだよ」  僕が呆気に取られてるあいだに、突然百合恵は僕のお腹に抱きついてきた。僕は脳みそが追いつかず、言いたいことを声にも出せない。 「私に捕まってて!絶対、離さないでよ?」  百合恵は胸の前あたりから僕の目を真っ直ぐにみてそう言った。 「あ、ああ、もちろん、離すもんか」  そう言って僕は百合恵の両肩から背中へと両腕を回して、ぐっと百合恵に僕の身体を押し付けた。  それを確認して、百合恵は腰に着いたダイヤルを回す。  すると、突然、僕らの身体は宙に浮いた。  そして、物凄い勢いでUFOみたいな飛行物体の方へと向かって飛び上がり始めた。僕はあわてて宙ぶらりんになった両脚で百合恵にしがみついた。 「え、なに、どういうこと」 「逃げるの!」 まだ状況を呑み込めない。 「それ、なに!?」 「反重力装置だよ」  昔よく読んでいたSFでよく聞いた言葉だった。    すこし斜め上を見ると、確かに紅い点はさっきより遥かに、遥かに、大きくなっていた。空気が震えている。  それからちらり、と下を見てみると、もう水族館がとても小さく見えた。胡麻粒みたいな人々が逃げ始める様子が見える。  ぞっとして前を向いた。 「あのね、ちゃんと説明させてね」  凄い風が吹き荒れる中で、百合恵は語り始めた。 「私、百万年後の未来から来たの」 「み、未来!?」 「そう、未来。あのね、疑わないで聞いてね。人類はね、あの巨大隕石のせいで、今日、完全に滅亡したの。」
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