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衝撃の事実だ。
未来から来た、だって…?
それに、人類滅亡?
ショックだ。
どうか過去形で話さないでくれ、
それは今まさに僕らの目の前で始まろうとしてることじゃないのか。
「NASAはパニックになることを恐れて隕石接近を発表しなかった。避難用宇宙船は要人だけ乗せて打ち上げたけど、なんと磁場異常によるジャイロ故障が原因で全部打ち上げ失敗したんだって」
マジかよ…開いた口が塞がらない。
「で、ほら、火星の有人探査とかもまだだったでしょ。だからしばらくの間、人類文明は完全に失われちゃったの。ところが、」
「ところが?」
「数千年経つ頃に、何故か火星に人類文明が再興するの。つまり、人類が何らかの形で滅亡前に火星に移住したってことじゃない。でも私たちの時代にはその記録がなかったから、どうやって移住したのかな〜って、タイムマシンとか使って調べたら、NASAは失敗するわ火星探査はしてないわで、じゃあどういうことだよ!!と。」
「何なんだ…どういうことなんだ…」
僕はただでさえ訳分からない事態の中で頭を抱えそうになった。
「それで結局、人類文明を繋ぐために私たちがどうにかして人を火星に移住させようってことになったの」
唐突にコロンブスの卵理論が発動しそうなことを言い始めた。え、それはかなり良くない事じゃないのかな。僕が訝しそうな顔をしていると、
「逆に私たちがやらないと、火星移住の歴史が変わっちゃって私たちの存在が無いことになっちゃうからね、やらざるを得なくてさ」
と言ってきた。うーん、そうなのか。よくわからないや。
「それで、選ばれたのが、はじめだよ」
は、はい?
「だけど最初はじめがいた時空線は私たちのいる時空線から遠すぎて、物理的にはじめを助けに行くことが出来なかった。それで、遠隔操作ではじめに時空線を何度も越えさせたんだ。百回目でようやく今の時空線にたどり着いたの」
更にこんがらがった。つまり、どういうことなんだ。なんで僕が。それに時空線(?)を越えてまで?
だがそのこんがらがった糸くずの中から、結論がなんとなく霞んで見え始めた。少し怖く思った。百合恵の口から別の答えが聞きたかった。
「ただ、一回時空線を越えるのには体力を結構使うから、消耗した体力を戻す時間が必要だった。だから、時空線を越える度にはじめの時間を二、三年巻き戻して、どの時空線でも今日、つまり終末の日を迎える前にはじめを次の世界線に移すことができるようにしたの」
脳みそが半ば思考停止に陥った。さっきまで到底信じられなかった百合恵の言葉もまともなものに聞こえてくる。
「で、二、三年分の記憶は毎回消すようにしてたんだけど、その、彼女さんへの思いが強すぎてそこの記憶だけどうしても残っちゃったんだよね。仕方ないから、記憶を付け足して行方不明になったことにした」
この一言でとうとう腑に落ちた。
こんがらがった糸くずが一挙に解ける。
ああ、そういうことだったんだ。
それで、さっきの光景が、デジャヴに感じられたんだ。
それで、大学三年なのにやたらと九十九人もの彼女の記憶があったんだ。
ああ、その九十九人はみんな、隕石で死んじゃったのか。
僕だけ、その、時空線とかいうやつを、越えて、生きたのか。
辛く、悲しい、現実だった。
「あ、ほら」
百合恵がそう言ったのが聞こえた。
頭が痛むのをこらえ、百合恵が目で指した方を振り返ってみると、あの紅い点は、もう、ゴツゴツした表面すら見えるほど、近づいてきていた。
とうとうそれはスピードをゆるめることなく、勢いよく突っ込んできた。
「これでこの星はおしまいになるんだよ」
百合恵が言った。
「地球での最後のデート、とっても楽しかった」
その瞬間、まるで走馬灯のように。
僕の脳内を、人生の記憶が駆け巡っていく。
20年余りを過ごした星が消える。
さっきのイルカたちは。クラゲは。
大学の友達、教授、先輩は。
高校のころ仲良かったあいつは?
兄弟は?それに、親父は?おふくろは?
思わず涙が零れた。みんな、死ぬのだと、やっとそれが現実にわかった。
「ちくしょう!!」
僕らはこの星の終末を見届ける前に、飛行物体の中に吸い込まれた。
その瞬間それは急上昇を始めた。
一瞬、熱線を感じた。それはほんの一瞬のことだった。
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