百人目の彼女

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 ハッチを開けて中に入ると。 「わあ…なんだこれは…!?」  目の前に広がる白い空間に、いくつもの巨大な試験管のようなものが立ち並んでいる。  よく見てみると、その中には見覚えのある女性が眠っているみたいだということに気づいた。あれにも、これにも、どれにも。 「えっ…あれは、和子?あっちは、由美?みんな、みんな、、いる」  僕はあまりの驚きにポカンとしてしまった。 「だってはじめ、別れちゃった一人一人への愛があまりにも強すぎてさ、流石にこっちの都合だけで引き離しちゃうの可哀想すぎるって思ったから全員連れてきたの。でも、みんな体力消耗してるからまだチューブの中ね」 といって百合恵は屈託なく笑った。  僕はそれを聞いて、あまりの嬉しさに、涙が一滴、二滴、と溢れ出した。 「ああ、ありがとう、ありがとう、百合恵」 「私だってはじめのそういう所に惚れたんだから。時空線も、時間も超えた片想いだったんだよ。そんなはじめの願いなら全て叶えてあげたいもん」  百合恵もちょっと泣きながら、そう言った。  僕は百合恵の深い深い優しさに、包み込まれているのを感じた。  すっかり赤色に包まれてしまった地球を置いて、この飛行物体は火星へと向かって舵を切った。なんというか哀愁漂う気持ちでいっぱいだった。  僕は百合恵に尋ねた。 「これ、まるでノアの方舟みたいだけど。なんで僕が選ばれたの」 「それは、んー、国家機密かな。とりあえず、適格だったんだよ」 「そうなのか」 「あと、ヒントは、私がこのプロジェクトのリーダーってことね」 「え、百合恵が?すごいな」 「ふふん、すごいのはそうでしょ。だけど、まあ、そういうことよ」  百合恵は顔を赤らめてそういった。 「でもね、私、はじめを火星に送り届けたら未来に帰んなくちゃいけないんだ」
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