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夜風が桃の花にぶつかるのが目に入った頃には、私のお腹は満たされ、呼吸は和らぎ、理性も帰ってきました。
だけど、既に時遅く、私の腕の中にある小さな身体からは、力が抜けきっていました。完全に。
もう、動かない。閉じただろう目蓋を開けることも、おとなしくなった喉が声を奏でることも、私に嫌悪と恐怖の視線と言葉を浴びせてくることも、もう二度とない。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
零れてしまう涙をそのままに、私はようやく口を離しました。
首を真っ赤に汚した魂の抜け殻は、がくりとその場に倒れました。指一本、動かすことなく。
すぐ傍で、老婆が白目を剥いて倒れています。私が命を吸い付くしてしまった男の子は孫だったのでしょう。こんな形で失うことになろうとは、寸刻前まで微塵も思っていなかったはず。
「ごめんなさいっ……」
無情に灯る紙灯籠に囲まれて、私は石畳に頭を伏せました。
感情に、衝動に、抗えなかった。私はまだ、生きていたかった。
でももう終わりです。人間を殺してしまった今、誰も私が生きていくことを許してなどくれません。私は本物の"化け物"になってしまった。
桃の花びらに打たれて、私は泣きました。泣きながら、闇が深くなるのを待っていました。捕まって処刑されてしまう前に、せめて最後に、あの人に私を見つけてもらいたかった。
しかし、やがてやって来た人間達に取り囲まれ、私は捕まってしまいました。
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