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    「……死んでも、よかったんです……」  潤いの無い醜い声が、雨を降らす闇に響きました。  神社で人間の男の子を殺してから一週間。人間に捕らえられた私は、逃げられないよう大木に縄で繋がれ、後は放置されていました。当然、その間の食事はありません。  風が鳴っても、蝶も飛んで来なければ、緑の香りすら舞い込んで来ない。石灯籠に守られた炎が悪戯に震えるだけ。  手を動かそうにも、足を動かそうにも、食い込む縄が肌を痛めます。  おまけに今日は延々と太い雨が落ちてきて、月にも星にも会えません。冷えた(しずく)が私の温度を奪っていくばかりです。  でも、たった今、やっと現れてくれました。ようやく裁きを下してくれる人間(ひと)が。餓死以外では死ねない種族(わたし)を唯一殺すことが出来るという、特殊な体質(ちから)を持つ人間(ひと)が。  力が入らない私は、繋がれた木に寄りかかったまま、大地を刺す雨を見つめて喋り続けました。顔を上げて平気でいられる自信がなかったから。 「私を拾ってくれて、食事まで恵んでくれた、優しい人間だったお母さんが死んでしまって……誰の血も口にしないで、このままゆっくり逝けたらって、お母さんが死んだ直後には、そう思ってたんです……」  涙と共に溢れてくるのは、言い訳でも、懺悔でもありません。 「でも私は……生きたいって、思うようになってしまった……真っ暗な夜の神社で、貴方のことを見かけた瞬間(とき)から」  これは、私の最後の告白。  神社で最後に生まれた私の願いは、一週間越しに叶いました。私に手を下すために現れたのは、他ならぬ深海さんだったのです。
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