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 私が何を言ってるのか、深海さんには解らないでしょう。深海さんは、この瞬間まで、私と出逢ってすらいないのですから。  だけど、私はずっと、貴方を見てた。 「私は……毎晩、貴方が去っていってから、あの神社でお願い事をしてました……いつも、傷付いたような顔ばかりしてる貴方が、笑顔になるようなことが起こりますようにって……」  沸き上がってくる恐怖が涙になって、視界と声を震わせました。  “気持ち悪い”  “汚い”  “死んでしまえ”  “化け物”  投げつけられてきた言葉を深海さんの口から聞いてしまうのが怖くて、でも不自由な手では耳を塞ぐことができなくて、私は醜くぼろぼろと泣き続けるしかありませんでした。 「……一度でも……一瞬でも、貴方の笑った顔が、見てみたくて……それまでは……どうしても、死にたくなかったっ……!」  掠れてしまった叫び。私が溢す涙は、雨に溶けて混ざっていきました。  死ぬのは怖くなかった。お母さんがいなくなった世界で、私を(いと)う人間しかいない世界の中で、たった一人で生きていく方が怖かった。  でも、それ以上に、深海さんの悲しそうな表情しか知らないことが辛かった。瞬きをするまでの間だけでいい。笑ってほしかった。  ふと、頭上の翳りが濃くなりました。雨が散らばる鈍い音が、すぐ傍から耳に届きます。  顔を上げると、番傘を差した深海さんが、私の正面で身を屈めていました。誰からも嫌われ続けてきた私の紅い瞳を、真っ直ぐ見つめて。 「貴女だったんですか。あの神社で、あの綺麗な桃の花を咲かせてくれていたのは」  初めて私にかけてくれた言葉は、驚くほど冷静で、けれどとても丁寧なものでした。
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