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後悔でも憐れみでもない、もっと温かなものが、私の中に芽吹きました。
亡くした人の為に、毎夜想いを馳せて。
こんな見ず知らずの罪人の話にも耳を傾けてくれて。前向きな解釈で受け止めてくれて。不躾なことを訊ねても、律儀に答えてくれて。
言葉を交わす間もずっと、既にずぶ濡れの私の頭上に傘を差してくれていて。その為に、自分の肩まで濡らしてくれていて。
私を見ても、“化け物”なんて叫ばない。
冷え切っていたはずの全身が、唐突に火照っていきました。顔の筋肉が緩んでいく。こんなのもう、確信できない方がおかしいです。
「深海さんは……優しい人ですね」
「……先程は言いそびれましたが、“深海さん”ではありません」
滴が弾ける音を割る、静かだけれど情の通う声。
「“しんかい”ではなく“ふかみ”です。深い海と書いて“深海”。“深海 蒼麻”。それが俺の名です」
「……深海……蒼麻さん……」
少し、惜しかった。力の入らなくなってきた声で、私は初めて呼びました。とてもよく似合っている、この人の本当の名を。
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