4/7
前へ
/17ページ
次へ
 後悔でも憐れみでもない、もっと温かなものが、私の中に芽吹きました。  亡くした人の為に、毎夜想いを馳せて。  こんな見ず知らずの罪人の話にも耳を傾けてくれて。前向きな解釈で受け止めてくれて。不躾(ぶしつけ)なことを(たず)ねても、律儀に答えてくれて。  言葉を交わす間もずっと、既にずぶ濡れの私の頭上に傘を差してくれていて。その為に、自分の肩まで濡らしてくれていて。  私を見ても、“化け物”なんて叫ばない。  冷え切っていたはずの全身が、唐突に火照(ほて)っていきました。顔の筋肉が緩んでいく。こんなのもう、確信できない方がおかしいです。 「深海さんは……優しい人ですね」 「……先程は言いそびれましたが、“深海(しんかい)さん”ではありません」  滴が弾ける音を割る、静かだけれど情の通う声。 「“しんかい”ではなく“ふかみ”です。深い海と書いて“深海(ふかみ)”。“深海 蒼麻(そうま)”。それが俺の名です」 「……深海……蒼麻さん……」  少し、惜しかった。力の入らなくなってきた声で、私は初めて呼びました。とてもよく似合っている、この人の本当の名を。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加