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 傘を足の横に置き、濡れながら手の包帯を解いていく蒼麻さん。橙色の灯火の中で(あら)わになったその肌は、傷だらけ。  蒼麻さんは、(ふところ)から取り出した短刀で、痛々しい手にまた一つ、新しい傷を作りました。  裂かれた肌からじわじわと湧く鮮血。蒼麻さんの、命の欠片。生々しい緋の色に、鼻を惑わす甘美な匂いに、酷く眩暈(めまい)がしました。喉が震えました。  雨よりも闇に映える紅い筋が、被さってくる透明の粒達に急かされて、惜し気もなく(したた)り落ちていきます。 「最後の……慈悲、ですか……?」  溢れ出しそうな欲を抑えて問う私に、蒼麻さんは、静かに首を横に動かして答えました。 「貴女方希少種には、餓死する以外に死ぬ方法は無いでしょう?」 「希少種……?」 「貴女のような、人間の血を喰らって生きる種族のことです。俺はそう呼んでいます」  湿り気と共に流れる小夜風が、血の香りを揺らめかせます。 「これは“処刑”です。人間には害がなくても、希少種が口にすればその場で死に至る……俺の身体に流れているのは、そういう異常な血なんです」  眼前に差し出された、鮮やかな死への誘い。  嘘じゃないことくらいわかります。宣告した蒼麻さんの瞳は、無情な雨に打たれ続けてきた大地よりも重い影に蝕まれているのですから。
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