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太陽が出ている間、私は春の木の枝に登り、身を隠すように花に囲まれて眠っています。太陽が輝いている間は激しい眠気に苛まれてしまう為、陽の下を動けないのです。
でも、宵闇が空を包んでいるのに、未だ身体が重みを感じていました。靄がかかったように頭が冴えないのは、全身が怠いのは、へこんでしまってるお腹のせいもあるでしょう。もう何日も、まともに食事をしていません。
だけど、そんな私の耳に、届いてきてしまいました。"食料"の近づいてくる音が。
「ばあばっ! 早く早くー!」
音を立てないよう、枝に手をかけて見下ろした先。元気よく階段を駆け上がってきたのは、髪も瞳も黒い、人間の男の子。
「桜がすっごいよっ! すっごく綺麗! 母さんの病気が治ったら連れてきてあげたいなっ」
「違うよ。これは桜じゃなくて、桃の花だよ」
はしゃぐ声に、嗄れた声が答えます。
男の子が登ってきて数秒の時間をかけてから、今度は人間の老婆がのんびりした動きで階段を上がってきました。
「今年は、梅も桜も全然咲かないねぇ……桃の花ばっかりだ」
大きな溜め息。老婆は落胆していました。風が花びらを誘っても、ほのかな甘い香りが漂っても、ちっとも微笑む気配はありません。
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