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弐
毎日見る夢は、いつも同じもの。過去が混在する、熱い揺らぎと冷たい残像。
始まりはずっと前。お母さんとも出逢う前。
独りで住んでた小さな山。春には花が吹いて、夏には緑が薫って、秋には紅葉が大地を埋めて、冬には降り注ぐ雪の冷たさが暗夜に映えた、孤独で自由な山の奥。
四季折々のその光景を、瞬時に呑み込んでいくどす黒い炎。春の花も、夏の香も、秋の葉も、冬の風も、全てを消し炭にした暴食の灼熱。
逃げ降りた先は、人間ばかりが溢れる村。
“嫌っ! 気持ち悪いっ!”
私と目が合うなり、甲高く叫んだ女の人。
“うわっ! 汚ねーから近寄んなっ!”
私と肩をぶつけた直後、何度も何度も肩を払った男の子。
“さっさと死んじまえっ!”
私を見ると、おぞましそうに顔を歪める人間。私が何もしなくても、私を見るなり石を投げつけてくる人間。
“この化け物っ!!”
浴びせられる言葉は全部、炎なんか比べ物にならないくらい冷たいのに、あっという間に私の心を焼いていく。
助けて。助けて。助けて。
息を切らし、救いを求めて走っている間に、私はいつも目を覚まします。全身を汗で湿らせて。必死に肩と口で呼吸して。瞳の端には涙を垂らして。
髪を長くして隠し続けてきた顔に、私はそっと触れました。伝うのは肌の感触なのに、麻痺した指先は何の温度も感じません。
でも、私を容赦なく突き刺しながら照らす太陽は、見当たらない。星が転々と遊び始める宵空。辺りには、私に優しい夜が広がっていました。
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