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ーごめん、仕事が押して、三十分くらい遅れそうー
LINEのメッセージを見ながら、ため息をついた。大学生の頃から付き合ってきた晴人との交際はまもなく5年になるが、最近はあまりうまくいっていない。大学を卒業して、私は会社のOLとして、晴人は自動車メーカーの営業として働き始めた。最初はどちらも、仕事を覚えるのに忙しく、お互い時間をやりくりして、毎週デートの時間を捻出していた。晴人に会って他愛もない話をするだけで、少し元気になれた。
そのうち、仕事にも慣れてきて、スケジュールも自分でうまくやりくりできるようになったけれど、晴人は仕事が忙しくなる一方で、この半年は、デートの予定を入れていても、ドタキャンしたり、遅刻したりということが続いている。同級生の中には、そろそろ結婚しようという子もあらわれはじめているのに、自分の方は進展どころか後退しているんじゃないかと思ってしまう。
仕事だから仕方ないとは思うけれど、このままではなんとなく先行きに不安を感じてしまう。
「遅れてごめん!」
晴人が駆け込んできた。本当は嫌みの一つでも言いたい気分だったけれど、息を切らせてどれだけ走ってきてくれたのかと思うと、私の口から出たのは、
「そんなに走らなくてもよかったのに。大丈夫?」
お気に入りのカフェで夕食をとりながら、とりとめのない話をする。でも、私が本当に気がかりなのは、二人のこれからだ。
お店を出て、駅までのプロムナードを歩きながら、私は晴人に問いかける。
「ねえ、最近、私たち、仕事が忙しくてデートもなかなかできないけれど、これからどうなるのかな…」
晴人の事は大好きだけど、仕事を優先したいと思っているなら、その気持ちを尊重して、二人の関係を考え直すべきなのかもしれない。
「実は今日は彩花に伝えたいことがあるんだ。僕は車の営業に就いたときから、決めていたことがあって・・・」
やっぱり、私の思っていた通りなの?
「車の販売数の目標があってね、自分で100台販売できたら、この仕事を続けていく自信につながると考えていたんだ。その目標が達成できたら、彩花とのことを真剣に考えていきたいと思う。実は今日、目標の100台を達成したんだ。」
別れも覚悟していたのに、晴人は彼なりに私の事を考えていてくれたんだ。嬉しいはずなのに、涙があふれてきた。
「私、ずっと不安だった。晴人との約束が流れることも多かったから…」
晴人は私の涙を拭ってささやいた。
「不安にさせてごめんね。これからは、不安なことがあったら、ちゃんと言うんだよ。一緒に考えていこう。今も、これからも。」
肩に回された腕が温かい。これからも、この人と一緒に一歩ずつ歩んでいこう。
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