~捜査file1-1~思い出話

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 そんなことを考えているうちに、彼女がいるであろうと推測したこれから入部する部活文芸部の『第二視聴覚室』に着いた。前まで行くと、物音が聞こえた。ガラッとドアを開けると、何か書いていた三井が驚いてこちらに目線を向けた。 「春樹君。どうしたの。」  三井は驚いたようにただでさえ大きな瞳をより大きく見開きこちらを凝視した。俺も結局のところ言いたいこともまとまらず自分の語彙力のなさに落胆しつつも、今思っていることを素直に話すことにした。 「確かにどうしたんだろうな。三井のことが気になって。いや、正確に言うと、朝のことで気になって。三井、無理して笑っているような気がして。」  そこまで言うと、自分の言ったことが自分でもよく理解が出来ず、三井はというとなぜか顔を赤くして、そしてこちらを見て「大丈夫」と笑った。 「ごっごめん。余計なこと言って。迷惑だったよな。」 「そんなことないよ。本当にありがとう。春樹君って本当に変わっているよね。あっ。悪い意味じゃなくて、思ったこと自然と口に出来るから素敵だなって。しかもちょっと気恥ずかしい言葉もストレートに。でも本当に大丈夫だよ。あんなことなんて慣れっ子で全く気にしてないからありがとう。」  そう言ってまた穏やかなきれいな顔で笑った。何かが突っかかっているようだが、なんとももどかしく自分の言葉の不器用さに落胆し、がっくりと肩を項垂れた。 「そっか。何かあったら、俺でよければ相談に乗るからな。執筆中にごめんな。じゃあ。」 「あっ。ありがとう。」  そんなありきたりな言い方しかできず、自分の言葉が恥ずかしくなって一方的に別れを告げそそくさと視聴覚室を後にした。扉を閉めるか閉めないかのところで三井は俺にお礼を大きめの声で言ってくれた。教室に帰ると、隼人はバスケ部の仲間と話をしていた。 「お帰り。見つかったか。」 「ああ。見つかった。ありがとう。」 リーーーーーーーーーーーン  言葉を言い終えるか言い終えないかぐらいに、また大きな声が聞こえた。耳がおかしくなるほどの声だった。「この声は聞き覚えがある」そう思った俺は辺りをすぐに見回した。何ら変わらない教室の風景だが、何故か三井のことを思い出した。微妙な違いだが、俺には昨日の指輪の声に聞こえた。でも、近くではなく外から聞こえてきたような。風向きなのかな。  また、昨日のように三井が落としてしまったのだろうか。だが、三井は視聴覚室にいるはずだ。ということは、誰かが持ち出したのであろうか。何のために。 「おい。春樹。どうしたんだ。」 「ごめん。なんでもない。耳鳴りがして。それにまたぼーっとして白昼夢を見ていたみたいだ。」 「お前。本当にいつでもどこでも目を開けながらでも眠れるんだな。しっかっりしろよ。」  そう言って隼人は笑った。そして、声のことは気にはなったが、誰がどうしたのかまだ何とも言えなかったので、三井が帰ってきてから確認をしてみよう。そう思い、自分の席に座った。
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