〜捜査file1-2〜盗難事件

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 三井が戻ってきたのは授業ギリギリだった。そのせいで話しかける暇がなかった。でも声が鳴り響かないのでもしかしたらそんな大事には至っていないのかもしれない。一時間ぐらいすぐに終わるから、それから聞こう。そう楽観的に考えていた。  その考えはすぐに間違っていたことに気が付いた。授業が終わり、片付けをして三井に話しかけようと思った時、三井はカバンの中や机の中を必死に探していた。指輪が無くなったことに今気が付いたのだろう。あまりにも鬼気迫る感じで必死に探していたため声をかけるのもためらったのだが、勇気をもって話しかけることにした。 「三井。もしかしてまた指輪を探してるのか?」 「えっ。なんで?」 「三井がそんな必死な形相で探すってことはよほど大事なものだろう。それに大きいものであればないことにすぐに気が付くだろうし、隙間を調べるようには探さないだろう。三井が戻ってきたのは授業ギリギリだった。その後すぐに必要な筆記用具であれば授業前にすぐわかる。その時にわからなかったってことはすぐに必要ないものででも授業の合間には存在を確認するほど大事なものってことだろう。そうなると話してくれた指輪しかないんじゃないかと。」  よし。これで俺が声が聞こえるとは思わないだろう。声が聞こえた気がしたから指輪がなくなったのではないかと言うことはできないし、下手なことを言えば変な奴だって思われるのが関の山だ。  これでも十何年変な奴だって思われないように観察力は養ってきたのだ。しかし、三井はすぐに返事をしなかった。  これは変なことを口走ってしまったかと思い。少しうろたえ始めると俺のことをじーっと見つめていた目をキラキラと輝かせて、俺に詰め寄ってきた。 「私、すごく焦っているけど、不謹慎なこと言ってもいい?」 「えっ。なんだ?」  俺がこれは確実にまずいことを言ってしまったと生唾を飲み込むと、三井はぐいっと俺に近づいて手を取った。
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