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当然のように聞いた僕。
先生は空いているピアノの椅子に「よいしょ」と億劫そうに腰かけてから、口を開いた。
「あれは何だっけな。モンタージュみたいなの。怒りとか興奮の度合いによって上下するもの」
「……もしかしてヴォルタージですか? 『ヴォルタージが上がる』みたいな」
「あぁ、そうそうそれ」
「モンタージュ……」
むしろそれは何か、と問いたかった。
「つまりヴォルタージみたいにゆらゆら上下するようにできてないんでね。――自分の身にないものは分からないんだよ」
「お心当たりがなくても、一般的に知られているものは分かるのでは……?」
「でも分かってなかったとしても生活はできるだろ? 思い出すのに困ることはあるけれど、使わないから思い出せなくても仕方ない」
まあ、それはそうかもしれないけど。
「ヴォルタージみたいにできてない、とは」
続きを促す僕。これでも随分会話ができるようになったものだ。小さい頃はレッスンでは「はい」としか言わない鵜呑み少年だったもの。
先生は食いつきがいい僕を見て目を細めていた。
「分かりやすく言えば0か100かなんだよ。こう、ポイントをガチっと切り替えるようにね。その間はないのさ。そういう生き方をしてきた」
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