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「俺より律儀なヤツだった?」
なんか腹立って、たいして慣らしてないのに激しく攻めてやった。
「んっ……っ!」
答えないのは苦しいからかイイからなのか、小さくうめきながら目をつぶる。
俺は最高に意地が悪い自覚があるから、大抵のヤツは俺より律儀だろうが、どうも気に入らない。
抱き上げて対面して、自分で動けと命令して、じっくり表情をうかがいながらまた聞く。
「俺とヤると無茶振りするから、絶対前のヤツのほうが、よかっただろ」
匠は俺の肩に手を置いて、唇引き結んで恥じらいをこらえながら腰を揺らす。
おそらく、質問の答えなんて考えてない。
生半可な動きでは俺が満足しないから、俺と自分が共に感じることができる場所を探すのに精一杯になっている。
真剣になってる様がいじらしい。
視覚効果と直接的な刺激で、俺の余裕も次第にそがれる。
が、体力のない匠の動きは、すぐに鈍くなった。
唐突にその腰を掴んで揺らぎを手伝うと、
「やっ、待って! んんっ!」
なかなかイイ声をあげて、俺にしがみついてきた。
俺の肩口に顔を埋めた匠の耳元に、つぶやく。
「どうなの。俺と前の男、どっちがイイの?」
イジメてやってるつもりだったのに、匠は俺を抱きしめたまま、言った。
「やきもち妬いてるの?」
「は?」
やきもち、って。
六コも年下の、こないだ専門学校出たばっかの未熟者が、俺にそんなコト言うの?
動きを止めた俺に、匠は言葉を重ねる。
「俺が前の男のトコに戻るの、怖がってる?」
その言葉に、俺はさほど考えずに、答えた。
「怖いよ、悪いか?」
俺が最初に付き合った男は、本性隠してたから三年もった。
そのあとは全部、半年ももたなかった。
こいつとも、半年たったから。
いつ匠が俺に愛想尽かして去っていってもおかしくない。
なのに。
「戻らないから、心配しなくていいよ」
「じゃあなんで男のこと、なにも言わねーんだよ」
苛立ちながら訊ねる。
「比べたら、気を悪くするかなと思って」
「言わねーほうが、気ぃ悪い」
だんだんホントに前の男のほうがよかったんじゃないかと思ってきて、メチャクチャ不安になったんだけど、匠は軽く言った。
「賢一の前にヤってたヤツね、賭け麻雀で負けて身体で払ってただけだから。付き合ってたワケじゃない」
なにそれ。
「賢一よりよっぽど紳士ではあったよ。でもそれがなかったらたぶん、最初に賢一について行ってないからね」
「そんなのどーでもいい。絶対に戻らないんだな」
俺なに焦ってんの。
手放したくないなら、また脅せばいいだけ。
……じゃ、ないんだよな。
俺はもう匠に、そういうことはできない。
心も体も弱っちいヤツなのに、すっかり俺は、匠に手なずけられている。
顔を離して、匠が俺を見る。
いつも無表情で生気なさげなその瞳がやや見開かれ、眉と口角が、微妙に上がる。
「切羽詰まった顔してるよ。珍しい」
その顔に、目を見張る。
今の顔、すごく、好きだ。
俺が静かになったから、匠はすぐに怪訝な顔になる。
「どうしたの?」
問いかけに、問い返す。
「おまえ今、笑ったの?」
「うん笑った。珍しくて、面白かったから」
「わっかんねーよ! なんだよそれ?」
相当真近で見入っていないとわからないレベルの、表情の変化。
今までもしかしたら、笑ってたけど気付かなかったのか?
いや絶対、今の顔を見逃すはずがない。
「なんで急に笑ってんだよ」
「賢一も急に、弱味見せてたからね。初めてじゃないかな、そういうの」
そーなの?
俺が弱くなると、匠は笑うの?
あざ笑うとは、違うよな。
なんか勢い落ちたから、押し倒して匠の胸を指先で刺激しながら、猛烈に口づける。
「う……んっ」
「もういっかい、さっきの顔しろよ」
惚けた顔で、匠は訊ねる。
「さっきって、どういう顔?」
「笑った顔。スゲーいい。あの顔見てイきたい。頼む」
下手に出たら、また笑った。
「そんな都合よく笑えないよ」
わかった。
きっとこれは、対等になって、俺を愛でてる顔。
勢いが戻って、またなんか腹立つから、激しくなぶってやる。
「結局、俺と前の男、どっちがイイの?」
匠はもう、笑わない。
つらいのか感じてるのか、言ってもらわないとわかんねーんたけど。
「賢一がいいから、ここにいるんだろっ」
「どこがいいんだよ、ドMだな」
「強いトコがいいって、前に言った」
荒い呼吸の合間に、懸命に答える。
匠は表情もとぼしいが、語彙もとぼしい。
中身が見えにくいがそのぶん、見えると際立つ。
俺がこいつに惚れた要素の、一つ。
「イイってどうイイの? わかりやすく説明しろよ」
匠は羞恥と快楽に眉を寄せて目をつぶりながら、あきらめて、言い放つ。
「好きだって、いうことだろ!」
初めて匠の口から、俺のコト好きだって言わせた。
ヤバイな、感極まる。
「やればできるじゃねーか」
偉ぶって感情隠して、俺も匠を、烈しく愛でる。
匠の笑顔を見たら、もう匠から離れられないだろうって、思ってた。
その顔、想像もつかなかったが、淡白なのに、魅入られた。
破顔させたら、もっとヤバイんじゃねーか?
もっとこいつを悦ばせたい。
匠を悦ばせるのは、匠のためじゃない。
俺が、悦ぶため。
「早くイけよ。俺もそんなに体力ねーからな」
なぶるの追加で匠のものをいたぶりながら、胸に顔を寄せ突起に舌を容赦なくからませると、ようやく匠は、すべての呼吸を泣き出しそうな切ないあえぎに変える。
一層強く目を閉じ背中をのけぞらせた匠の、はかない肢体を愛しく想う。
終末を迎えてか細くなった叫びに、心も身体もとらえられる。
同じ果てに達することに、抵抗するのは無理だった。
了
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