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この男は、どうしてやれば笑うんだ。
無理矢理犯して、男とヤってるコト家族にバラすとほのめかしながら、関係を保持し始めて半年。
途中で俺が惚れたって言って、こいつ、匠も俺に惚れてたって知ってから三ヶ月。
笑った顔を見たことがない。
表情がとぼしい人間だってのは、会ったその日からわかってた。
どんな表情でもいいから見てみたくて脅して襲ったら、眉を寄せて悲しげに瞳を震わせ、薄い唇を噛んで俺を睨む様が、とんでもなくそそった。
自分でその顔をさせておきながら、抱きしめて安心させてやりたいと思った。
少食なのか体質なのか、全然余計な肉のついていない白い肌も綺麗すぎて、襲ったその日に、もう惚れてた。
全てが俺のツボだったからできるだけ優しく抱いてやっても、匠は悦んだ顔をしない。
感じてるだろうに、それを出さないよう必死に耐える表情をするだけ。
イイ顔しないから、イジメてやって、羞恥をこらえる顔を引き出すのが精一杯。
今日もホテルの最上階の部屋を取った。
匠は自己評価が限りなく低いから、俺が金かけても惜しくない人間なんだってわかって欲しくてそうしてるが、こいつはたぶん、それをまだわかってない。
カーテン全開で月と街の明かりで薄明るい室内、風呂から上がったままベッドに寝転んだ俺に同じく全裸の匠を跨らせて、一人でしてみせろって命令した。
「やだよ」
わずかに困った顔で拒否するが、俺は頭の後ろで指組んで、傍観の姿勢を崩さない。
「右手ですんの? 左手ですんの?」
「そんなのどうでもいいだろ」
命令聞いても聞かなくても、俺はもうこの景色で満足してる。
鍛えてないのに引き締まった身体。
このあいだまで痛んでそうな茶髪だったのに、薄闇の中艶めくやや長い黒髪。
仰ぎ見る角度が、またそそる。
「俺は左手」
匠の左手を取って、やや反応を見せるやつのものにあてがう。
唇を噛んで渋々手を動かすその表情は、快楽じゃなくて恥じらいだが、それで十分なまめかしい。
「こっち来い。手は止めんなよ」
俺の要望がわかったのか、使ってない手をついて顔を寄せて、斜めに唇を交わらせてきた。
俺はすぐに匠の頭をつかんで、口内をむさぼった。
唇の隙間から漏れる匠の吐息を堪能してから、体勢を入れ替える。
ローションを手にとって、じらしながら塗りたくり、白い内股に口づける。
「ふぅ……っ」
「手ぇ止めんなって言ってんだろ」
止まった手にもローションを垂らし、俺が指を侵入させると、塗られるだけでビクビクしてた匠は、羞恥に耐えられなくなって脱いだ衣服で顔を隠す。
「なにしてんだよ」
「恥ずかしい」
「顔、見えねーよ」
衣服を遠くに放り投げると、匠は怒ったような困ったような表情で俺をにらむ。
その顔も好きだけど、俺が指を軽く動かすだけですぐに表情が悩ましげに変わって、満足する。
初めのころは、こんなに表情変えなかった。
たぶん、匠が俺に気を持ち始めてから、これでも素直に感じ始めた。
連み始めたころ、こいつには女がいた。
彼女じゃないって言ったから、彼女になる前に俺が落として、捨ててやった。
匠はブチ切れるかと思いきや、俺に揺らいだ女のほうを切り捨てて、俺を捨てなかった。
こいつはちょっとおかしい、けど、一層惚れた。
そして、女もいたが男もいた。
経験があったから、俺にも渋りながら身体を許した。
考えごとをしているうちに、もう準備万端になったようだ。
指三本入れながら、また口の中を犯す。
「んん……っ!」
控えめだが今までで一番大きな喘ぎが上がる。
たまらない。
俺は指を引き抜くと、匠の手を俺のものに誘導する。
動き出した指に目を細めながら、スキンに手を伸ばした。
「意地悪いのに、律儀だよね」
真面目な顔で、言ってくる。
スキンをつけるだけで律儀なの?
自衛でもあるんだけど。
気だるく装着して横たわる黒髪を撫で、ゆるゆると侵入しながら、言った。
「前の男も、律儀だったか?」
前のヤツのことなんか聞いたコトなかった。
ただ、男が初めてじゃなかったってコトくらいしか知らない。
女のほうは俺もヤッたからロクでもないヤツだって知ってるが、男のほうは全くわからない。
問いの答えは、来なかった。
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