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……そういえば今日会った時からずっと持っていたな。
秋が神妙な面持ちで首を傾げると、鈴鳴は照れくさそうに視線を外した。
「秋の言う通りだったよ。俺いい加減、固定観念から抜け出そうと思う。これはその第一歩というか……遠慮しないで受け取って」
「え、コレごと持って帰れっての……? ケースは?」
「いらなかったら回収しに行くよ。じゃあ、また明日。本当にありがとう!」
それだけ言い残し、鈴鳴は笑顔で改札を抜けてしまった。
「えぇ……何これ?」
嫌な予感がする。すぐには電車に乗らず、秋はキャリーケースを引いて駅構内のトイレに入った。Sサイズだろうに結構な重量を感じる。一体何が入ってるんだ。
とりあえず個室に入って、恐る恐るチャックを開けた。
「げっ!!」
思わず大きな声を上げてしまった。ケースの中には目も当てられないゲイ関連のDVDや本が大量に入っていたからだ。
「……ん?」
さらに、付箋が一枚入っていたので見てみる。そこには、「大好きな恋人と一緒に楽しんで」と書かれていた。
……。
こんなものを持って帰って恋人に見られたら、絶対頭おかしくなるまで抱かれる。そんな恐ろしい地獄絵図を、容易に想像できた。
返したい……けど鈴鳴はもう電車に乗ってるだろうし、この荷物をここに置いといたら後で絶対特定される。トイレに入るところは防犯カメラにばっちり映ってるし。
恋人と一緒に楽しむにしても、この数はやばい。限度がある。
超絶余計なお世話……!
やっぱり彼の相談に乗ったのは間違いだったかもしれない。あのバカ正直で人の良いところが、時として凶器に変わるんだから。
「あー、もうっ!!」
秋はどうしようもない状況に苦しみ、世話焼きな親友を怨んだ。
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