シンプル

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無事に秋にゲイ関連の宝物を渡し、鈴鳴は一安心して帰宅した。部屋に入ると、すぐに見慣れた影が現れた。 「和巳さん、ただいま帰りました!」 「鈴! おかえりー!」 「あれ、何だか機嫌良いですね。良いことでもありました?」 いつにも増して陽気だ。 留守番をしていた和巳さんは、俺を見るなり抱きついてきた。それはいつもの事だけど、今日は声がワントーン高い。 「よく分かったな。実は今日、久しぶりに中学の友達と飲んでたんだ! 皆だいぶ変わってて、でも変わってなくて、俺は変わってないらしい!」 「そうでしたか……良かったですね、和巳さん。水飲んでください」 手を洗った後、上機嫌な彼に一杯の水を渡した。 和巳さんはお酒が強いと勝手に思っていたけど、飲むと笑い上戸になるらしい。箸が転がっても笑い転げる。全然面白くない時事ニュースを見てひたすら笑っているその姿はひと言で言って奇妙だった。 「ほら鈴、こっちおいで」 少し横にずれて、ソファに座るスペースを作ってくれた。断る理由も思いつかず、とりあえずそこに座る。 「はぁ……鈴だ」 「えぇ。俺です」 よく分からない受け答えをした。和巳さんは俺をしっかり抱き締めて、においを嗅いでいる。困るなぁ、小走りで帰ってきて今すごい汗かいてるのに。 反対に和巳さんからは酒と煙草と、ちょっとだけ香水のにおいがした。まだウチの会社に入ってないし、現状無職だから今の自由時間が嬉しいみたいだ。 「鈴、俺達も結婚したいな」 「そうですねえ。結婚……え? 結婚?」 普通に返したものの、中々ビッグな単語が出てきて驚く。彼を見返すと、どこか懐かしそうに目を細めて笑っていた。 「日本でもできたらいいのに。ま、それは置いといて。今日会った友達も、もう結婚した子が何人かいてさ。すんごい幸せそうで。あぁ、やっぱいいなぁ……って思ったんだ」 「確かに、人の結婚式でもドキドキするし、感動しますもんね。自分のなんかがやったら大変だなぁ」 「あぁ。なぁ鈴、誰にも祝福されなくてもさ……いつかできたらいいな。俺達の、一生を共にする誓い」 そっと頬に手を添え、微笑む。……彼を見ただけで、胸の辺りが熱くなった。 これから先の事を考える。世間の目とか、一緒にいることで辛い目に合うこともあるかもしれない。それでも、二人でいることを望んでる。 「……できますよ。絶対、やりましょう! 俺達のけっ……結婚式っていうのか分からないけど、そんな感じのやつ!」
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